境港発 今期のメバル事情2008(2月中旬現在)
先週末は,北西の風がパタリと凪いで,出張前仕事帰りの30分一本勝負。
それにしても,,,
「往復夜行バスを使った九州日帰り出張」なんてスケジュールは,いいかげんヤメにしたいものだ。夜行バスで行って一日仕事してその日の夜行バスで戻ってくるのは,→2泊1日??,これを日帰りと言っていいのかどうか。学生の貧乏旅行にしたってもう少し余裕があろうにと思う。
ともあれ当夜,25㎝ほどのメバル・カサゴ・ムラソイと3種型揃いで各1尾ずつ,きれいに釣れて,ハイ終了。オカズ釣りはかくありたいもの。最短時間の最大効果。この時期のいるべきところではないとはいえ,今年ならではの“いるべきところ”に,やはりいる。
なるほど。今期,産卵場も枯れており,群れで来遊する餌が少ない中,どこか餌のあるところは,となれば,こんなところでウロウロ餌探ししているわけね・・・,とは潮通しの良い平場の斜面で今期11月には30㎝越えのカサゴやヒラスズキが出たところなのだが,安定漁場なるかと喜んだのもつかの間,旨くないんだな,これが。
塩煮(過去ログ「塩煮の世界」参照)にしてみるとハッキリわかる。茶メだから身はしっとりしているものの,皮やヒレ際がムッチリしていない。煮汁に濃厚さが出ない。つまり“コラーゲン質”が足らんのです。
ね,繁殖力旺盛な人間のオス諸君,コラーゲンですぞ。オスだろうがメスだろうが,繁殖活動に全て使っちゃってるわけですよ。急流の淀みから出た体型のいい茶メバルの♂であったが,腹身が薄い,味が薄い,コクがない。男もコクがなくてはね。
資源維持の観点のみならず,食味の面からも,やっぱり産卵期まわりは釣るもんじゃない。せっかく味わっても寂しくなるだけでは悲しい。これじゃあ釣られたメバルがお気の毒。
かといって,定期的に探っておかねば動向がわかりにくい。さりとて釣って痛めて放す,というのも趣味に合わぬ。なら釣らなきゃいいじゃねえかと言われて当然だが,でも動向をつかんでおきませんと・・・。などとバカげた輪廻地獄にはまりつつも月日は過ぎてゆき,メバルの体も本調子が期待されるところ。
二匹めのドジョウを狙って翌週の凪を同じ場所でやったみたところ,数日来の冷たい雨でドカ濁り+急激な低水温+川のような潮流。今期,スパッと狙えるチャンスがどれほどあるものやら。とにかく今年はマイナス要因が多く,環境変化がめまぐるしいので狙い打ちが難しい。
いたしかたなく,帰り際の漁場に寄れば天は我を見放さず,期せずして25㎝前後のマアジ入れ食い。12月に来ていた同サイズのアジ群れは既に沖の深場に去ったハズ。こんな時期に,どこから来たものかと首をひねりつつ,さっさと1㎏ばかり蓄えて終了。この手返しと選択的型の良さがワームアジ釣りの骨頂。ただ,変則的なこの時期に好機に遭遇したとしても,次はいつ獲れるかわかりませんからね,これでしばらくは釣らなくても大丈夫。根魚だったら釣り過ぎは御法度なのでこうはいかない。青ザカナならではのこと。
案の定,この翌日には群れが消え,以来今までアジのアの字も見当たらぬ。
獲れるままに獲るのではなく,「今獲らなくては明日にはなくなってしまうのか」,逆に,「今獲らなくても明日もあるのか」,そして,「今獲ってしまっても差し支えない相手なのかどうか」。このへんの状況把握と判断が,計画の立ちにくい自然相手に安定的魚食生活を設計するオカズ釣り師の課題である。ま,ラックも重要な要素ではありますが。
さて本題。境港の今期のメバル,中間報告です。
問題は,「今年の“ナゼ”」,であって,境港のそのあたりを少々。
まだ十分に整理していないが,ご参考まで。
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【 2007年10月~2008年2月上旬の概況 】
昨2007年,例年10月から始まる当地のメバル釣りは,過去ログでも述べたとおり,10月中~下旬に数日間連日の好釣果が得られたものの,11月中旬に入って低迷しはじめ,冬季産卵前の盛りたる12~1月も釣果はパッとしなかった。例年以上に海況が安定しないこともあり,連日で釣れる,ということが少ない。
粘れば大型が出ることもあるが,継続性に欠ける。島根半島や中・西部,鳥取県の東部などでは,ソコソコ釣れてますとは聞いているが,ここ境港界隈では,日々安定したオカズ獲りと言うにはほど遠い状況が続いた。粘って単発では意味がない。達人諸氏が活躍しておられるその他の日本海各地や瀬戸内海あたりではどうであろうか。
【 釣れるメバルと餌生物の状況 】
本年10月から2月現在までの期間を,サカナの釣れ方と胃内容物の状況から判断すると,概ね3期に分けることができる。
●「第1期」10月中~下旬
例年のこの時期ならば20㎝前半が少しずつ継続的に釣れるような実績ポイントでは,極めて短期あるいは単発で,数が釣れても1日で終わりとか,1尾で終了あとが続かず,といった調子で推移した。数が釣れるときの胃内容物はシラス,単発終了のみの場合はほぼ空胃であった。
この実績漁場での短期集中ぶりは,10月中旬に異例に早い時期の短期間,一時的に吹いた北の風によってシラス群が接岸し,これをメバルが追っていたことによって生じたもので,いわゆる“産卵接岸”ではなかった。その証拠に,生殖器官の熟度が極めて低かっただけでなく,まもなく今期冬の特徴であった東の強風が頻発するようになってシラス群れが離散すると,同時にメバルもいなくなった。
釣れたメバルは,ほとんどが青メであり,茶メは,ごくわずかであった。本来は青メが釣れる時期と場所ではない。
つまり,本来この時期にコンスタントに見られるべき「茶メ」の索餌接岸は,実質ほとんどなかったといえる。
実績場所で上記のような現象が見られた傍ら,相変わらずの高水温が続いていた中で連日数尾ずつ20~25㎝が釣れていた場所があった。
これは,過去4年間,メバルに関しては小型しか釣れないと見放されていた場所,あるいは砂泥底なので根魚はおらぬと言われていた場所の岸壁や小さな沈み瀬周り,などを再開拓した結果である。
これら再開拓漁場は,実績漁場よりも美保湾の沖側に位置しており,ここでは茶メが8割を占め,2割が青メ,岸壁沿では過去3年間この時期で初めて23㎝前後の赤メが混じったが,型も体型も安定していたわりには,胃内容物は全てメガロパ(カニの幼生)など粒型の走光性浮遊生物であり,シラス等魚類やゴカイ類は全く見られなかった。
●「第2期」11月初~1月初旬
10月に単発で終わった実績漁場には相変わらずメバルの集中的な来遊はみられず,底層を探れば小カサゴの山であった。
10月に良型メバルが連発していた再開拓漁場においてもキープサイズのメバルは消えて15㎝台の小型が主体となり,代わりに25~30㎝の抱卵カサゴ♂♀の集中漁獲があった。
例年,カサゴの抱卵はメバル産卵後の3月あたりでピークとなるはずであるが,実に2~3ヶ月ばかり産卵開始が早まったことになる。胃内容物は,全て小型のカニおよびテッポウエビなど底性甲殻類であった。
なお,この時期12月を中心に,マアジ実績漁場では例年通りワームに連日釣れ盛っており,25㎝オーバー主体に量的にはコンスタントに確保できたものの,本来この時期の脂の乗りではなくヤセ型主体。胃内容物はカニの幼生等に加え,ごく少量のシラス類であった。
●「第3期」1月中旬~2月上旬
1月中~下旬には実績漁場でようやく成熟した23㎝前後の抱卵♀メバルが散見されたものの,全て単発で終わる。胃内容は,ほぼ空胃。茶メと赤メ。ポイントは小さな沈み瀬のある平場ないしテトラ帯であった。
例年この時期,1月中旬をメドに数尾は釣れてくる尺クラスの♀は,今期は釣れていない。
また,2月に入ってから,既に産卵が終わっていなくなったと思われたカサゴの抱卵が実績漁場の小カサゴに見え始め,これも異例のことであった。
一方,再開拓した漁場では,良型カサゴは消え,かといって良型のメバルが来るわけでもなく,茶メの小型が山ほど。港湾奥の港内漁場も同様。
いわゆる春の雨後のタケノコのように湧き出る「タケノコメバル」というヤツだが,これは例年2月下旬あたりから出てくるもので,1ヶ月ほど早い。各漁場とも風向きによってはごく少量のシラスやシラウオなどサカナ系餌の来遊があったものの,これを追う良型メバルの浮上はなく,小型がこれを追いかけ回していた程度であった。
【 今年の“ナゼ”を考える 】
さて,
カサゴの産卵期のズレは昨年も同時期に1ヶ月早まった上に長期化していて気になっていたところであるし,マアジの体型のバラツキも昨年にもまして特にひどく,餌の量・質との関係上放っておけない現象ではあるが,ここではメバルを主体に有用な情報を整理してみよう。
まずは釣れ方について。
①10月に短期集中で釣れ盛ったメバルは,短期的に来遊したシラスを追って接岸したものであり,成熟しておらず,シラスの群れの離散に伴い,いなくなった。餌を求めて大きく索餌回遊することの多い青メ主体。
②再開拓漁場で釣れた胃内容が甲殻類の幼生主体であったこと,釣れたメバルの体型,および他漁場では青メ主体でしか釣れていなかった状況を合わせると,10月に釣れた茶メは,ほぼ前シーズンからの居付きであった可能性が高く,いわゆる索餌接岸ではなかったと推測される。
③11~12月にかけてシラス等の魚系餌を狙って接岸すべきメバルの来遊は少なく,釣れても単発,胃内容物は甲殻類の幼生などであった。茶メ主体。
④1月に入り,中~大型の抱卵個体が単発で見え始めたものの,釣獲頻度は更に低下し,平場の沈み瀬やテトラ帯が主体。型は良くとも空胃で,風向きによっては稀にサカナ系餌の接岸があったにもかかわらず,これを食ってはいなかった(ただし,湾奥の小メバル集中帯では頻繁に捕食がみられた)。
これに餌や海藻の発生,他生物の状況,気象など環境面の情報を加える。
⑤10月は夏場からの高水温が続いた中で,一時的に美保湾に対馬暖流の一部(相対的には冷水)が蛇行し,ここに時折北寄りの風が吹いたため,吹送流によって湾内へのシラス来遊となった。
⑥例年ならば10月上旬で姿を消すはずのマダイの幼魚が,場所によっては11月下旬まで釣れ続けていた(マダイの幼魚の沿岸での生活圏は,多くの場合メバルのそれとかなり重なっており,水温の季節的変化に伴い同じ空間を一部交代で利用している。つまり,子ダイが釣れ始めたらメバルは終わり,子ダイが消えたらメバルの始まり,というのがここ数年来のサイクルであった。つまり当地において,マダイ幼魚はメバル漁期終始の指標となり得る)。
⑦11~12月にかけて東系の風が吹き荒れ,北西風が安定せず,沿岸へのシラス来遊が阻害された(東系の風は,北東から南西まで風がめまぐるしく動いていくことが多いため,安定した表層吹送流が形成されず,シラス等表層生活を主とする餌の離散につながる)。
⑧12月あたりから繁茂を開始すべき冬の海草類が発生せず,海藻を生活基盤とする餌生物(ワレカラやエビ・アミ類)は見られなかった。一方,甲殻類の幼生の発生・着底,およびその他の底棲甲殻類の存在は,例年どおりであった。
⑨1月に入っても冬の海藻類の成長は停滞しており,実績漁場において例年産卵の拠り所となる海藻空間は形成されていなかった。一方,1月下旬あたりから,冬の海藻が十分発育しないままに春の海藻が出始めている。
⑩12~1月にかけての積雪は極めて少なく,冬型の低気圧が数回接近したが,雪として残ることはほとんどなく,冷たい降雨が続いた。山間部に積もる雪であれば森林の機能と併せて安定かつ緩やかな陸水栄養分の供給につながるが,低温の雨であれば,降雨後の塩分濃度の変化が大きく,かつ急激な水温の低下につながった。
更に,あまり行かないので断片的ではあるが,境港を少し出た美保湾に接する島根半島の一部およびその先の状況を記しておくと,
⑪11月にかけて,美保湾西部の端に位置する美保関港では,境港エリアの雑賀委託漁場同様,早期から抱卵カサゴ主体で釣れており,メバルはほぼ不在であった。
⑫12月に入り,美保関港では良型・良体型のメバルが単発的に見られたが,全て茶メで,胃内容は空であった。これらは1月に入ると暫時いなくなった。
⑬美保湾外を西へひとつはずれた七類港の褐藻帯では,12月中旬に小型に混じって23㎝前後の中型も出たが,胃は空であり,全てがガリガリの痩せメバルであった。
⑭冬の海藻の生育が悪いのは美保湾に面した側だけであって,島根半島方面になると,例年通りのホンダワラ等褐藻類の繁茂がほぼ例年並みであった。
さてさて,
これら当面14の事実を眺めてみたとき,なんとなく今期現在のメバルの事情が見えてくる。
● メバルの集中接岸を促す湾外部からのサカナ系餌の来遊は,冬季の風向きに支配されやすいということ。従って,今後も外部からの餌供給がない場合には,海岸性の餌の発生のみが索餌接岸のカギを握っているということ。
● シーズン初期の索餌接岸は外部からの餌供給によって決まり,その漁場(湾,堤防)の向きに伴う環流の形成状態によって魚体の差が決まるが,今期は風が変則的であったために各漁場への餌の配分が安定せず,場所(漁場)単位で勝ち組と負け組(太っている,痩せている)がはっきりしていたこと。
● ただし,沿岸性の甲殻類の発生は局所的に例年並みであり,それが漁場ごとの居付き度合いに表れたということ。
● 総じて夏から冬にかけての水温が,産卵接岸の引き金となる海藻帯の形成及び海藻由来の餌発生のカギを握っていること。
● 冬季の降雨・積雪の状況が,沿岸の水温のみならず(おそらくは)栄養塩類の供給という意味でも,海藻および沿岸性餌の発生に大きく影響しており,この点は,半島よりも特に陸水の影響が強い境港エリアで顕著であった
ここから,当地の漁場形成要因を考察し抽出していく。
《 風について 》
例年は安定した北西風が吹く時期に東風が吹き荒れたということなのだが,
まず,北を向いて口をあけている美保湾の沖には,東北東に上がっていく対馬暖流が恒常的に流れており,これの影響を受けた沿岸の潮が,反転流として湾の東端から時計回りに西向きに回っていく。美保湾のサカナは東から来る,と言われる所以だ。
通年ならば,冬季ここに北西風が吹くと,対馬暖流に対して斜め後方からの吹送流が生まれ,対馬暖流縁辺の中にいる西海域で孵化したシラスなどの餌生物が,美保湾の環流に巻き込まれてグルリと接岸し,サカナもこれに付いて移動するというわけだ。
ところが今期多かった東からの風,これは対馬暖流の流れに対して右斜めから押し返す風であるだけでなく,その結果,美保湾に入る反転流の形成を弱め,仮に合間に北寄りの風が吹いて餌が入ってきたとしても,再び東風に戻れば,餌およびそれを追うサカナの湾からの排出を追い風の形で早めてしまう。更に,この時期の東風は南西方向まで振れながら吹くため,せっかく岸に寄った餌を沖へ向けて離散させてしまう。
今期,釣れても短期集中あるいは単発であったひとつの要因が,これだ。
《 潮について 》
潮には,天体の動きに伴う「潮汐」によるものと,風による「吹送流」とがあるが,主に沿岸性餌生物の活動およびメバルの食い気を左右するのが前者,主に外部から供給される餌の種類と量を左右するのが後者である(これが一時的な活性化に貢献することもある)。
今期は,先述した不安定な風環境によって吹送流による餌供給が阻害され,更に後述する続いた冷雨によって湾内への流入水量の変化が激しく,漁場での実質的な潮の動きにも影響が出た。つまり,2タイプの潮の両方ともが変則的であったため,総じて潮汐表に基づいて過去の実績に照らして狙いを定めても不発が多く,その原因が特定しにくかったわけである。
《 水温について 》
水温は,上記,風と潮に加え,陸水の流入も大きく関与し,繊細な餌生物であるシラス等餌となる魚類の孵化率および成長に影響を与えるものであるが,それと並んで影響を受けやすいのが海藻の胞子であり,またそれら着床後の発育である。
これは,産卵環境という意味で,また,春に向けて発生する海藻依存型餌生物の基盤として最も重要。逆に,稚魚を放出する早春に,♀は,稚魚の餌となる生物が確保されやすい海藻帯を産卵場に選択するということでもある。
今期の産卵接岸の停滞は,11月までの高水温,および1~2月にかけての急激な冷水の流入によって,海藻帯が形成されなかったことが大きな原因であろう。
《 餌について 》
結局,釣りの原理を支える餌の事情は,上記相互に不可分の3点,「風・潮・水温」に全て支配されている。あとは元本すなわち親からの“タネ”があるかどうかだ。
とまあ,こうしてみると、なるほど自然は,何が先とは言わずグルグル回っている不可分の世界だ。
【 “それ”はどこにいるのか 】
さて,,,
釣れる釣れないは別にして,岸寄りでは影が薄い今期のメバルが,それではこの時期,どこで何をしているのか。これがやはり疑問として残る。
当然のことながら,どこかで餌を採り繁殖しようとしているのにちがいないのであって,諸事情により今年は産卵をとりやめましたのであしからず,などという器用なマネは,いかに適応性の高いメバルとて極端すぎて無理。
生物の本質をたどれば,「生まれてから死ぬまで食い,その間で子孫を残す」,ということであって,無論サカナも例外ではない。“食う・寝る・休む,子を作る”の4点セットを必ずどこかでやっている。そして我々釣り人からみれば“餌なきところにサカナなし”が基本ではあるが,しかし子作りが食欲より優先されることもあるのが生命の力たるところ。ソレとアレとをたぐっていくと,メバルの動きが見えてくる。端的に言うならば,サケを見よ。餌があろうがなかろうが,子を残すために行くところには行く。餌,ばかりではない。
『通常の索餌のための餌場はどこにできるか』,
『繁殖のために栄養をとる索餌をどこでおこなうか』
『交尾後の♀が産卵するための適地はどこか』
『回復のための索餌の餌場はどこでできるか』。
1月中旬,友人の船に頼んで調査範囲を広げてみたところ,ひとつのヒントが,意外とスンナリ出た。この時期メバルは,『沖で集まっていた』というのが結論だ。
正確に言うと,「集まっていた」のか,接岸のタイミングを「待っていた」のかはわからない。ここでは場所に関する詳細は書かないが,沖合の一定条件を満たした場所では,抱卵良型メバルが,ちゃんと例年並み繁殖期の1月に,しかも連発して釣れた。わかった,もうそれ以上触りなさんなと言って調査終了。
結局,
『メバルの感覚は例年並みであったが,今期の餌およびその他の環境が,索餌や繁殖にとって変則的で条件として整わなかったため,それに応じて許容範囲内での接岸にとどまった』 というのが解釈としては妥当であり,餌的にも,産卵的にも,それらに関わる水温等環境的にも,その限界が沖の漁場であったということなのだろうと推測される。
一度は岸に入ってきて環境が整わなかったから沖に戻ったのか,あるいは沖で必要十分な環境が整ってしまったのでそこから動かなかったのか,はたまた何らかの感受性で岸がダメであることを察知したのか,それはここからはわからない。
が,沖漁場の調査結果から推すれば,1月から2月上旬に単発で抱卵♀が釣れた状況は,メバルが岸寄りはダメだと察知したしたときに,DNAゆえか,それでも例年の場所に行きたくて我慢できず,たまたま体力的に劣環境を乗り越えることができた個体,逆に,よそに産卵適地を探すことが出来なかった個体,そんなヤツが,岸から竿が届く例年並みの範囲に接岸あるいは居残り,結果として単発に釣れていた,というのが真相だと思われる。
おもしろいことに,このような“やせ我慢”タイプはほとんどが赤メ,加えて若干の茶メであった。おしなべて赤メは,メバル3型のうち最も“場”に対する執着が強い。藻や構造物に対する依存度が一番高いのが,この型だ。
人間でも執着が強い人は難儀な目に遭ったりしてますねえ。などと言ったらメバルに失礼。
先述した沖漁場では,1月の中旬段階で既に完熟した放卵寸前個体を多く確認しているわけだが,2月初旬のいまだに♀が接岸していないところをみると,今年の抱卵メバルは,岸よりも“比較的”環境の安定していた沖の中深部海藻帯や構造物周りを中心に産卵を終える見込みだ。
従って,「これから季節が進むにつれて抱卵大型個体が接岸してくれるのではないか,水温が高かったので単に遅れているだけではないか」,といった期待は,すっかり崩れたことになる。
もし今後産卵接岸があるとすれば,ここしばらくのうちに岸寄りの海藻が急速に成長して環境が整ったところに産卵の遅れた♀が接岸する,というような淡い可能性が残されているのみで,今の状況からするとおそらく単発で終わるであろうし,それも,環境が整ったら,の話であって,当方のオカズ供給のアテにはならぬ。だいいち,抱卵メバルは旨くないのだから。
【 メバルは来るか 】
いずれにせよ,次なる懸案として「産卵後のメバルは接岸するやいなや」,という問題が浮上するのであるが,そのカギとなるのは,これまで整理してきたコレとソレとアレだ。
これらの状況によっては沖の漁場に停滞したまま,ということもあり得るはずだが,沖に回復するに足るだけの十分な餌がなければ,必ず岸に回ってくる。これは“来ざるを得ない”。さてどうなるか。
やはり当面の指標としては,海岸で発生する餌。
春の海藻がどこにどれだけ生えるか,そして今年はあるかどうかわからないけれど,稚アユの遡上に先立つ港内迷入,及び春のイカナゴの発生(これは昨年,境港では7年ぶりにあったのだが),これらがあるかどうかに期待している。シラスは既に成長してしまっており,その後どこに行ったのか音沙汰がない。外部から来遊する餌がこのまま入ってこないのであれば,岸寄りで発生する次の餌に期待するしかない。
境港はここ数日,今日も冷たい雨雪が降り続けており,餌にとっても海藻にとっても,当然メバルにとっても快適とは言い難い。しかし,釣りはせずとも日々の観察。ジグヘッドをはずし,糸の先にガン玉つけて,海底を触って歩くだけでもよいではないか。地道な努力はアトほど効いてくる。
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【 その後の話 】
上記を記した一週間後の今,2月中旬,実績場所で,まとまった数のメバルが出た。
23~25㎝の茶メが4つ,20㎝そこそこが3つ,うち赤メ1,あとは18㎝の茶メが2つ。ささやかではあるが,40分勝負の必要十分量。10月以来,久しぶりのまとまった接岸だ。これは次の時化が来るまでの3日間,潮汐に合わせてずれていったが,遜色ない漁獲が続いた。
胃内容は,茶メではたっぷりの浅海性のアミ類(1㎝前後)と,赤メでは岩礁由来のグソクムシの仲間が少し混じった。海岸由来の餌の発生が始まっている。
これらはいずれも運動能力が低く,特にアミ類は,緩い潮が効いてくると群れで海底から少し浮き上がって定位しながら植物プランクトンを補食する。力のないサカナにとっても苦労なく食える餌で,低水温下・回復期の弱ったメバルにとってはうってつけだ。従ってアタリ方は,ポク,と押さえてしばしじっと動かないような出方をする。
全て茶メの♂ということは,むろんもはや産卵接岸ではない。回復初期の索餌回遊が始まった。
交尾を終えた♀は卵の成熟を待ちつつ暫時沖の適地にて今も産卵中であり,♂は交尾を終えてしまえばフリーなので,回復するべく餌を求めてさっさと移動する,ということで,お先に到着いたしました,というわけだ。卵胎生のメバルならではの摂理と動き。
しかしながら、回復初期だけあって,型は良くても痩せているし,食いはあっても引きが弱い。水温も冷雨で低くなっているので,目の前に餌が来ないと難しい。従って,ベタ底を舐めるデッドスローが基本。
そして潮。一般的に潮が流れれば食いが立つと考えられがちであるが,沿岸性アミ類を食っているときのメバルは単純にそういうものでもない。むろん動かなければダメなのであるが、かといって一方的な強い潮であれば,アミ類は海底の淀みに沈んで固まるか一方向に流されてしまうので,結局潮が止まっても流れすぎても食いが悪い。従って,潮が小さく頻繁に行きつ戻りつしているとき,すなわち,日本海では大潮周りの潮位差が少ないとき,アミの群れは海底に立つ。これが時合いの狙い目だ。
それにしても大切なのは誘い。
早春に発生して潮に対して定位しながら底層に群れを形成するアミ類が,どのような動きをするか,皆様,ご存じでしょうか。これを竿で表現するのは,ちょいと難しい。まず長い竿ではできない。張りのない竿ではできない。かといって,アタリ方は小さいので穂先が繊細でなければいけない。そんな竿はあるのか?。
このお話は,まとめてまた後日。
先週、念のため,再び船を頼んで沖の漁場に行ってみると,♀の産卵が終盤になったとみえて,げっそり痩せた♀が見え始めた。やはり接岸しないまま沖で産卵を終えつつあるようだ。比較的藻場が形成されている半島方面では,どうであろうか。尺も出ているらしいのであるが,それが♂なのか♀なのか,型(3型)は、そして胃内容物は何なのか,そこがいちばん気になるところ。
境港は,西は宍道湖・中海・境水道,東は日野川から由来する大量の陸水の流入があり,また流入先である円弧型の美保湾は,島根半島と大山に挟まれて気象や海洋環境が独特だし,おそらくこの地から導き出された考察は,ここでは通用したとしても仮に日本海の近隣であっても適用できない可能性がある。とはいえ今日にあっては日本沿岸全体の連動的な海の変化も見逃せない状況なので,それだけに同時期の他の地域の状況が知りたいと思う次第,
全国メバル釣り師による状況分析ネットワーク,地域ごとの特派員,みたいな体制ができたら,もっといろんなオモシロイことが見えてくるのだが,誰か一緒にやらんかなあ。
特に気になるのは,日本海と瀬戸内海との連動性だ。両者とも,山脈を挟んで南北に並んだ大きな池みたいな海。たとえばアジ,シラス,これらの同時期の体長のバラツキは,日本海と瀬戸内海で時期が同じでなくとも,2年前からひとつの傾向として表れている。これが意味するところは何なのか。ひいては,これから変わって行くであろう海を相手に,釣り人は,漁師は,サカナを食べる我々は,何を考え,どうしていったらよいのか,それを釣りや食や水産業を通して模索するのが,当家の目下の課題だ。
ま,何事も変則的な今年ですから,せいぜいアタマを柔らかくして構えておきましょう。これからどうなるかは予断を許さぬところゆえ。
少なくとも春の餌は徐々に発生し始めたようなので,早晩まずまずのメバルは寄ると見ている。港湾オカズ釣り師としては,もう少し旨くなるまで,いましばらく,控えめにモニターしておくこととしたい。
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