メバル3型と,その味覚

ウエカツ水産

2007年05月11日 18:04

 境港は早くも夏の気配濃厚であるが,メバルが騒がしい。

 ここ1ヶ月以上,相変わらず冷蔵庫のメバル在庫状況に応じていくつかの漁場をのぞきに行っているが,小さいほうでも20㎝前後,ほとんどが25㎝前後で中には尺手前も。1回もスカがない。
 
 そもそもこんなに釣れ続くことは珍しい。潮の中ないし縁辺分にたむろして小魚を狙っているメバルの食い気はすごい。今年は餌生物の種類と出現傾向,蝟集と分散が例年と若干異なるためか,このような索餌形態が多いように感じる。根に付いている連中であれば,大きいのから順に釣っていき,次の群れが入ってくるまでにひと息入るものだが,潮付きは,条件さえ合えば毎日釣ってもおかわりが入って来る。潮に居付けるだけの体力をつけた者から順次加入,といったところだろう。餌の群れが大きいほど,また,その群れをまとめる潮目や湧昇流が長く横たわるほど,より広範囲からメバルを集めてくれる理屈だ。風向きや潮によってスポットまでの距離や方向,メバルの深度等は日並みで変わるものの,必ずどこかに居る,というのが現在の状況だ。はてさていつまで続く事やら,経過に観察を要す。
 ということなので,沢山釣ってもきりがない。独りで行くときには3尾釣ったらさっさと帰ることにした。オカズさえ獲れればあとはそっとしておく。

 ところで,最近学会でも常識となりつつあるメバルの3型(赤・黒(青)・茶)であるが,私がかかわっている場所でも時期的に型の組成に変化が見られてオモシロイ。現在に続く荒食いが始まったのが4月上旬で,その時は例年になく25㎝級の大きな赤が2割,居残りらしきソコソコの茶が8割といった構成だった。この頃はヘチのワカメ林の中から良型が目の前で飛び出すような見釣りが続いていたが,下旬に入り,赤はどこかへ去り(おそらく磯場に繁茂するガラモ場に),茶はここを離れて沖目の餌床に付くようになった。しばらくは夜にはヘチに戻ってくる部隊もいたようだが,4月下旬に入り,いわゆる青が混じるようになると,ヘチをねぐらとする部隊は極端に減り,沖目に散開,餌などの条件によっては集束する。胃内容物も,エビ等甲殻類から小魚に変わった。これが更に進むと,例年並みであれば,夏には青の中~大判が暴れまくり,周辺で小~中の茶とチビ赤が混じり合って遊ぶのであるが,今年はどうなるか。

 さて,これらの変化に呼応して,それぞれの型ごとの体型や脂の乗り,肉質なども当然変化していく。このへんが,大変味わい深い。
とうわけで前置きが長くなったが,今回はメバルの3型とその味の考察。

 メバルを釣っておられる皆さんも,どうも色カタチで味が違うようだとお気づきの方が多いと思う。そこでこんな表をまとめてみた。メバルの3型の出現時期,サイズ,および調理方法でみた食味評価である。ここ2年間の海の急激な変化によって少々傾向が変わってきている要すだが,だいたいこんなところだと感じている。メバルは概ね20㎝を境に肉質が変わるので,分けて記載した。
 なお,食味で×をつけては魚に申しわけないので「△」にとどめおいた。また,来遊状況についてはあくまでも境港港湾エリアが主体であることをおことわりしておく。




 この表に加え,各型の形態(プロポーション)および時期的な釣れ方の変化などを勘案し,味覚的視点からみたメバルの分類型の特徴をまとめると,およそ次のよう。

【赤】
 港湾付近への滞留期間が短く,かつ小型が主体。港湾部へはワカメ林などの海藻類を拠り所として来遊するので,これが消滅すれば,よそへ向かう。他の2型に比して味が繊細で身が薄く,刺身や焼き魚では十分に味わえない。10㎝前後の小型個体は春に雨後の竹の子の如くわき出すので「竹の子メバル」と呼ばれるが,この時期は味がたよりない(標準和名のタケノコメバルは,最近,ベッコウゾイと呼ばれている)。
 晩春の一時期,シラスを食い始めるエリアの20㎝前後のものは,煮魚にして佳味。濃い口醤油や砂糖を用いた田舎煮でも悪くはないが,3型中最もしっとり繊細な肉質であるため,昆布ダシに薄口醤油および少量の酒・ミリンを吸い物程度に調味した下地で静かに煮る「沢煮」が適す。また,3型中最も臭みが薄いので,沢煮を冷たく冷やして下地と共に味わう“冷製”も品がよい。
 いずれにせよ,最適サイズの20㎝前後は,市場には揚がるものの,境港の港湾メバル釣り師には,ちょいと縁が薄い。

【黒(青)】
 他の2型に比して,体高に対して体長が長く尾びれが大きいため,相対的に体の後半が痩せているように見える。これは,高速回遊して小魚を追い回す生態に適している。身の厚みは他の2型の中間くらいだが筋肉質。
 晩春,ワカメ林が枯れ始める頃から接岸が始まり,次第に個体数を増す。餌が沖目にないときには構造物にも定着するが,他の2型ほど執着せず,夏のある時期が過ぎると一斉にいなくなる。
 春の小型のものは問題ないが,夏が近づき大型が釣れだすと,これが悩ましい。磯臭さこそないものの皮が固く,煮てもブリンと反り返りゴム質,焼けば身との相性が悪い。脂が乗ってもこの傾向は変わらない。身肉のほうも,3型中最も硬く,加熱してもしっとりせずにバラバラだ。焼いても煮てもこの傾向は変わらない。
 ではどうするかと言えば,刺身に限る。皮をつけたまま湯シモとし,氷水にとったのを削ぎ切りにしてワサビ醤油でもよいし,肉を薄く削ぎ,湯引いて千切りにした皮と共にポン酢で食べるのもよい。夏の風情だ。皮の薄い茶メバルでは,湯引けば皮がはがれてしまうし歯ごたえに欠ける。
 また,青メバルは肉が硬いだけあって3型中最も日持ちが良く,3枚におろしてペーパーとラップにくるんでおけば,1週間でも身がしっかりしたままである。従って,尺前後の青メバルが1枚あれば,数日間にわたって夕暮れの晩酌オカズに困らない。

【茶】
 他の2型,特に青は専ら索餌目的で港湾に回遊するのに対し、茶メバルの集中的な接岸は産卵が主な動機のようである。晩秋から本格的な来遊が始まり,産卵を経て分散する。3型中で最も環境適応能力が優れており,春の頃は海中林で赤メバルと,初夏には沖目で青メバルとの混在も多く見られる。例年の傾向として,成熟個体の接岸,産卵,回復,小型個体の成長,分散,をサイクルとしているが,変則的に大型個体が構造物を拠り所として長期にわたって居残る場合も散見する。
 3型中,味覚上,また調理法上,最もバランスが良く,かつ汎用性が高いのがこの型だと思う。刺身ならば冬場に身が締まり脂が乗り,厚めに削ぎ切った飴色の身にははプツッとした気持ちのよい食感と穏やかな甘味がある。この意味において刺身に適すはせいぜい20㎝チョイまでで,25㎝を越えると刺身の小味は消える。そうなれば焼くか煮るのがよいが,焼いて旨いのは25㎝前後までである。いわゆる尺手前や尺上は大味になるので,若干旨みを加えてやる必要があるため,煮,或いは蒸すのが適している。煮・焼きの旬は,冬の生殖巣が未熟の時期と,晩春の回復後の2回訪れる。

 本種はホントにありがたい。ほぼ周年獲れる上に近場で釣れる数も多い。時期ごとに,旨いサイズが変わり,ちゃんと適した調理法が存在する。尺に近づいても,青メバルほど味が荒れるわけでもなく,皮も硬くならず,しっとりした肉質と,しっかりした皮の味に一体感がある。

 それに・・・。ここでは刺身・焼き・煮と代表的な調理法のみを挙げてきたが,実はこの茶メバルには,どうしても欠かせない,季節限定の料理があるのだ。それは「天ぷら」だ。

なーんだと言う事なかれ。
ちょうど山にコゴミ,タラの芽,ウドなどが出てくるころ,この時だけレギュレーションを18㎝から2㎝ほど下げる。スマンスマンとつぶやきつつ下げる。これを,そこそこ数を釣り,面倒でも3枚におろし,腹骨をすき,皮をひいておく。中骨はとらなくてよい。皮をつけたままでもそれはそれで香ばしくはあるのだが,この時ばかりは雑味なく味わいたいので皮はとる。

 まずきれいなサラダ油で山菜類をスバヤク揚げたのち,その鍋にごく少量のゴマ油をたらし,それでカラリとメバルを揚げる。片身で1枚。少々強火でカリン,と揚げる。
 単なる白身ではない。きめ細かくキューッと歯にまとわりつくようで,噛めばじんわりと甘味,その味を懸命に追いかけようとする刹那ののち,サラリと解けてノドに消え落ちてゆく。もどかしくて次の一切れに箸をのばしてしまう。単なる淡泊に非ず,ただならぬ淡味である。淡味なれど滋味である。引き際が絶妙で,知らずして引きずり込まれる味だ。
 この味わいは中~大のサイズでは,まず出ない。大判を切り身にして揚げても同じ味にはならない。要は小サイズの茶メバル特有の肉質なのだ。

 私にとっての春告げ魚は,これに尽きる。この短い期間だけ,毎年これを数回ヤル。メバルだけ揚げても雰囲気が出ないし,かといって他の野菜と揚げてもピンとこない。山菜と若メバル。春の天恵である。

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 こうして書き綴り振り返ると,メバルの3型は,実に上手に棲み分けしており,時期・サイズで空間の共有と分離をおこなっている。そして,これに伴い食味の上でも交代があり,常にいずれかの型が何らかの調理法で賞味に値するしくみとなっている。天の采配とはこのことだ。
 
 釣れる魚のサイズのことを言えば,釣りの指向性にもいろいろある中,私は完全に味覚第一,かつオカズ確実確保,必要十分量漁獲,といったスタイルである。その時期に応じて一番旨い種類とサイズが適度に釣れてくれればよい。それを選んで釣ろうとするから,それはそれでアレコレ頭を悩ます。

 こんなだから,時折,意に反して季節はずれの青の尺物などが釣れると,当惑する。釣れたぜと自慢はするけれど・・・。
 茶メバルであっても大きすぎるのは考えものだ。今期釣れた茶の32㎝は煮て食ったのだが,やはり大味であった。この場合,「煮付けがいい」のではなく,「煮付けが妥当」なのである。いくら茶メバルとはいえ,煮て本当に旨いのは尺以下だ。特に25~28㎝あたり。

 昨年は年末にかけて,尺前後が結構続いた時期があった。オカズ優先なのでほかになければ持ち帰り食べるが,大きいのが釣れて,釣り人としてはウレシイ心理もある反面,実はいささか複雑な心境である。おのずから,そのような時期のそのような場所では,あまり釣らないようになる。メバルは尺越えまで10年以上かかるといった事実もあるが,やはり最高に旨く食べようと思えばこそだ。今日もこの時期,せっせと中判を追っかけている。

 少しずつ,青が混じり始めた。夏になって,この大判を数枚釣ったら,晩秋までお休みだ。


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