スズキの臭味

ウエカツ水産

2007年05月26日 23:43

 このところ雨も少なく潮加減もあってか、夕方から夜にかけて濁りがきつい。
 1ヶ月半も釣れ続いた“餌床付き(潮付き)”のメバルも、連日の強い南風に吹かれてイカナゴの群と共にどこかへ消えた。これからは、ほかの餌を求めてそれぞれに回遊、あるいは居残りと分かれていく。彼らが落ち着くまで、ひとまずここらで小休止か。

 昨日は久しぶりの雨が降り、それでも少しは残っとらんかいなと思い、ちょいと行ってみた。ベイトは散漫なシラスの群れに変わり、小アジが散発的に群れ、雨、風、濁り、餌、とくれば、もうセイゴ・スズキの独壇場である。背中を出して餌を追い回すお祭り野郎もいた。これではメバルがいたとしても迷惑顔をするだけである。

 早々に撤収、とした矢先、回収目前で65㎝が掛かってしまった。
残念なことに、スズキはここまで大きくなってしまうと食っても釣ってもつまらない。やはりスズキは、産卵前と後を除いた時期、50㎝前後の、背・腹の凛と張った勇ましいげなヤツなら良いのであって、今回釣れたようなのは本来ならばお帰り願いたいところであったが、傷がついてしまえばやむなし。
というわけで、締めて持ち帰った。

 大きなスズキは、どうやって釣ろうが、どうやって食おうが、引きも食味も鈍重である。全調子に近いメバル竿にライン3ポンドだから獲るまでに時間はかかるが、重量感だけで面白くはないし、身がゆるく大味だ。どちらも総じて“のっそり”している。
 世間では、90㎝のスズキ釣りました!などと釣り雑誌に見ることがあるが、釣ったあと、皆さんはどう対処しておられるのであろうか。

 もうひとつスズキは問題を抱えている。大きくなるほどに、特有の「青臭さ」が強くなるのだ。これは、サカナ全般の、いわゆる“生臭み”とは別の臭さである。
 スズキに近い仲間に淡水のブラックバスがいるが、やはり共通した臭さをもっている。これまた親戚のヒラスズキではそのような臭味は薄いようであるが、もし、あの臭味が淡水と関係があるのであれば(たとえば河川水に入るときの浸透圧調整や防護機能など)、河口産ののヒラスズキを一度食ってみたいところ。

 投げやりに書いているようであるが、けしてスズキそのものを嫌っているわけではない。長崎や神戸では、急流でイワシを追いかける時期を狙って出かけたし、実は、水の清澄良質な湖沼を探しては、食いたくなるとブラックバスを釣りに通った。銀山湖のバスは特に風味がよい。

 しかし、いかなる事情にせよ、あの青臭みをそのままにはできまい。
 そこをどうするか、というお話。

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 十数年前、長崎でブラックバスに手を染め始めた頃、友人が買ってきたBeナントカという物欲促進系アウトドア雑誌に、「ブラックバスを食べてみよう!」という記事が出たことがある。
 その後、ブラックの日本産在来水棲生物に対する食害の問題が取り沙汰され、これはゲームフィッシャーと漁業者、研究・行政を交えての熱い論争にまで発展したが、そのときに水産庁やいくつかの県や漁協が促進PRしたのが「キャッチ&イート」であって、まあ、この雑誌の記事は先駆的であったとも言えよう。

 さて、それによると「皮に臭味があるので、三枚におろして皮を必ずはがし、ムニエルとかフライとかに仕立てれば、食べられますよ」といった内容であったと思う。
 で、早速やってみた。
 実に腰のないサラリとした肉質で、若干の泥臭さを伴う浅い味の単なる洋食であって、あれほど果敢な魚食性のサカナが、これっぱかりのものかとガッカリしたものだ。それ以来、しばらくバス釣りからは遠ざかるのである。

それから数年。
銀山湖に仲間でキャンプに行き、私は素潜りでコイを突き、友人は散ってバス釣りだ。そして夕方、友人は35㎝内外のバスを数尾釣って戻った。

 数尾のコイは、洗いにしてワサビ醤油と酢味噌として、水が良いせいか、すばらしかった。
一方、ブラックはどうしたかというと、今さらフライもムニエルもつまらんということで、ひとつは皮をひいてコイと同様に洗いとし、残り数本を、皮の臭味を知っていた私は、とりあえず基本に則り、臭味をとる意味で粗塩で擦ったのち水洗いし、塩を振り直し、焚き火にかざして焼いてみたのである。

これが、たいしたものであった。

例の雑誌には、皮がクサイからとる、と書いてあって、たしかに嗅いでみれば臭かったし、かといって皮をはいでしまったブラックバスは、味わうに値せぬ味とアタマから信じ込んでいた。
しかしこれを食ったとき、それまでの自分の固定観念と精進のなさを悔やんだことだ。

旨い。 皮が、旨い。 皮と一体となった身が化けている。
数人で、あっというまにむさぼり食ってしまった。

 かつて頼りなかった身肉は、焼けた皮と合わさることによって、やさしい甘味と野性味、そして十分納得のいく旨味を獲得した。
 それからのちである。私が“食える水に棲む”ブラックバスを追いかけ始めたのは。
食えるバスであれば、周囲のバスゲーム屋の冷たい視線をものともせず、活け締めにして持ち帰った。当時はバスゲーム熱が高く、今もいるのかどうか知らないがバスプロなどもいて、こういうことをおおっぴらにやると、けっこう白い目で見られることもあった。しかし、旨さが勝った。

 その後、塩擦りに加え、少量の日本酒を振りかけておく手法を併せることにより、皮の臭味は全く問題にならなくなった。そしてクサイと言われてきた皮は、世に日の目を見ることになったのである。
素材の質としては、スズキとメバルの中間的な扱いができる。
ブラックバス料理は一気に展開した。

既にこのブログでも紹介した塩煮をやった。
千切り野菜をたっぷり使った蒸しものも、和・洋・中とやった。
香草をあれこれ使ったオーブン焼きもやった。
ムニエルも、皮をつけたままでやると別格の味に進化した。
また、夏であれば、トムヤク・クン(エビ)ではなく、トムヤム・プラ(魚)に仕立て、汗を流しながら大勢ですすった。

 それぞれに上等の味であったが、やはり、適切な下処理をしたものに塩を振って、焚き火にかざして焼いて食うのが一番うまいように思う。それと、やはり淡水魚を使う東南アジアの料理はピッタリくる。
 その一連の中で、ブラックバスもスズキと同様、大きく40㎝を越えると旨くないこともわかってきた。大味で泥臭さが出る。ベストサイズは、よく肥えた35㎝前後だ。また、30㎝程度では肉の味が出ない。

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さて、ブラックバスの事例であらかた内容を書いてしまったが、「スズキ臭さをドースルか」、という話であった。

そう。ブラックバスと同様、
ウロコ・内臓、腹腔の背骨について腎臓および血液をとり洗ったら、シッポのほうからたっぷりの粗塩で擦り、流水で洗い流し、日本酒少々を振りかけて一呼吸置いたのち、水気を拭いてペーパーでくるんで冷蔵庫へ。これで下処理完了である。

 ただスズキの場合、ヒレやエラ蓋の棘が強靱であるため、慣れないとケガをすることがある。塩擦りする前に頭を落とし、全てのヒレをキッチンバサミで切り取っておくとよい。
以前、メバルの塩煮のところで少し書いたが、ヒレは雑菌が繁殖しやすい部位でもあるので、保存する場合はなおさらだ。姿を気にする料理でなければ、とってしまうのがよい。

料理法についてはブラックバスの記述から派生すればよいし、白身なので、けっこういろいろ使える。が、少し加えておく。
特に「洗い」については、上述した下処理を必要とせず、速やかに処理する必要があるからだ。

 まず「洗い」にしたい場合、身が硬直前(「身が活かった状態」という)であることが前提となる。硬直中(「締まった状態」という)、もしくは硬直後(「あがった状態」という)では、洗いにする意味がない。

 というのは、洗いという調理法は、そぎ切りにした身が、真水に当たったときにチリッと縮れる状態にあってこそ初めて食感と清涼感が出て、余分な脂分と臭味成分が洗い流されて淡味で旨いのであって、硬直に入った身で同じ事をやっても、水気を吸ってベタッとなるばかりなのだ。
旨い洗いを食いたければ、このことを念頭に置いてほしい。

 家に帰るまでにどうしても硬直してしまったら、そぎ身を浸けた水に日本酒少々をたらすと身が縮れてくれるという裏技はあるが、その味落ちは比べるべくもない。
 そこで、釣り上げてから持ち帰るまでの処置が重要となってくる。洗いをするためには、死後硬直までの時間をできるだけ長くしたいからだ。一般的なサカナの保存・輸送方法とはちょっと違うので、ぜひ憶えておいてはいかがでしょうか。


【 スズキの洗い 】

(1) 釣り上げたスズキは、暴れないように速やかに手カギで脳を壊して即殺し、次いでエラをあけて背骨を断ち切り、海水中で放血する。このとき、体を折り曲げたりしてはいけない。この一連の作業を「活け締め」という。万事を魚体に負担をかけないように配慮する。

(2) 水が澄んだらサカナを取り出し、できれば細いピアノ線を背骨に通っている神経路に通し、神経から筋肉への伝達を断っておくのがよい。
 海水で濡らした新聞紙にくるみ発泡箱に横たえるが、絶対に氷水の中に浸してはいけない。氷は小さいかけらを数個、サカナに直接あてないように入れておけば足りる。箱内の温度にして7度前後。
 短時間であれば、むしろ氷を入れず、そのまま通気良く持ち帰るのがよい。濡れ新聞の蒸散で冷える程度でちょうどよい。

 以上が、死後硬直までの時間を延ばすための処理である。

 もちろん、エアを入れた海水で活かして持って帰れるのならば、それが最高である。
洗いにする代表格でマゴチがあるが、これは発泡に活かして帰っても平べったくおとなしくしているサカナなのでかさばらない。
 スズキの場合は、ちょっとなあ・・・。

(3) 持ち帰ったら、手早くウロコ・内臓・頭をとり掃除し、スバヤク水で洗い、水気を拭く。この時点で既に硬直状態に入っていたら、今回は洗いはあきらめたほうがよい。またの機会もあろう。塩と酒で臭味をとっておこう。

(4) 3枚におろす前に、ボウルに氷水を張っておく。また、盛りつける器を冷蔵庫で冷やしておく。
 中骨をとり、サクにしたら、シッポのほうからそぎ切りにし、順次氷水に落としていく。
 全て落とし終わったら、菜箸で軽くかき回してやると、身が縮れてくる。そこで氷を除いてザルにとり、身をペーパーで包んで軽く叩くように水気を切る。これを冷やした器に盛る。
 実は、洗いの味は、文字通り、“洗い”加減で変わってくる。洗いが不足すれば臭味が残るし縮れが足りない。洗い過ぎれば旨味が逃げる。さて、そこのところですな。

ワサビ醤油、ポン酢、梅肉、ショウガ醤油、いずれでもよい。
よく冷やした純米もしくは吟醸酒が合いますよ~。


スズキを旨く食うときの要諦は、次の如し。

● 場所、時期、サイズ、体型を適切に選択すること。
● 塩と酒を適切に用いて、皮の臭味を除去しておくこと。
● ただし、洗いにする場合は、活け締めし、適切に持ち帰り、帰宅後は速やかに調理すること。
  この場合に限り、塩と酒による下処理は必要ない。


 以上、スズキもちゃんとしてあげればいろいろできる、というわけだ。
 ということで、ウチも今日は久々のスズキ料理である。
 たまにはよい。


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