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2007年08月21日

決定版!夏のサカナは涼しく食う

東日本ではぼつぼつ涼しくなってきたやに聞くが,この境港の暑さはナンダ?この痛い日差しはどうなってんだ?。海の中でサカナも海藻も茹だっている。こうなると,船で沖に行くか,清流のアユ釣りでもしない限り,私の漁獲活動は極めて停滞するのである。せいぜい夕涼みがてら堤防に出て,人のアジ釣りでも眺めながら世間バナシでビールを飲むのが関の山。ウエカツ水産も盛夏の数日間は開店休業だ。

室内温度35℃。こんなときにサカナを,どうやって食えというのだ。わが家にクーラーがあるわけじゃなし,扇風機をかけたとて,せっかく冷やした刺身を切ってもアッという間にぬるくなる。ビールも酒も然り。従って,精神状態が逆上傾向となっていけない。
こんなときは,五感に涼しげな,冷たく“ひんやり”したサカナ料理があってもいい。今回は,魚種にこだわらず,とにかく涼しくサカナを食べましょう,というお話し。
と言っても,あらいとか,湯引きとか,焼きちり,程度の涼しさでは,まあ月並みですな。求めるのは,もっとガツンと涼しいヤツだ。

長い前置きは暑くて書けないから,すぐに調理法に入る。

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魚涼味1【水なます】

夏,青空,入道雲,青い海。とくれば,水なます。というくらいに,夏にはベストマッチの,千葉県は房総半島の郷土料理。
房総の漁師料理といえば,生魚の身肉を味噌と薬味と共に包丁で細かく叩いた“なめろう”およびそれを平たくして生木の葉や青シソを貼り付けて焼いた“さんが”が有名であるが,「夏にはやっぱ,水ナマスだっぺおう!」と,房州漁師は声を大にするのである。ワシもそう思う。ナメロウやサンガは酷暑にはチト重い。

水ナマスの味わい,すなわち口中で跳ね踊る活きの良い身の粒,涼しげな薬味の香りと歯触り,旨味と共に胃袋まで落ちていく冷たい喉ごし,カランと器に触れて立つ氷の音,これら全てが夏の風物と合致しており,またそれ自身が風物と化す。まさに涼しい魚食ランキング№1と言ってよかろう。

水ナマスは,ナメロウやサンガがサカナだけにとどまらずに新鮮なイカ,アワビやバカガイなどの大型貝類でも作るのと同様,いろいろな魚介類で作成可能なのではあるが,こと水ナマスに関しては,アジとイサキ,及びこれらに類するサカナを用いる。
この2魚種に勝る素材はない。なぜなら,真夏限定の料理だからして,真夏のサカナを使うのである。これ天の道理ナリ。
では作り方を。

①用いるサカナは脂が乗っている必要はなく,むしろないほうがよい。従って,アジでもイサキでも,小さめのものでもよい。
まず鮮度第一。できれば硬直前が最高。従って釣り人に特権性がある。これを三枚におろし,血合い骨を切り除いておく。鮮度を落とさぬよう,手早く,が肝心。

②ここから先の作り方は,2つに分かれる。
A)ネギ,ショウガ,青シソ,ミョウガなどの薬味を適宜ミジンに刻み,細切れにしたサカナの身と合わせて包丁で叩き刻む。
B)同様の薬味とサカナを合わせ,味噌を若干濃いめに加えて包丁で叩き刻む。
要は,この時点で味噌を加えるか,あるいはあとから別途加えるかの違い。
活きの良さと新鮮味はAが勝っているが,Bは味噌の塩分でサカナや薬味の躍動感は多少減少するものの旨味は強くなる。
いずれもコツは「叩きすぎないこと」。しっかり魚肉の粒が感じられる程度に止める。

③Aタイプであれば,ボウルに入れた氷水に味噌を加えて若干濃いめに味加減し,叩いたサカナと薬味を加え,箸でカラカラっと混ぜて出来上がり。
Bタイプであればお椀に氷水を入れ,そこに味噌タタキを適量落として,箸でかき混ぜればできあがり。

いずれも,サカナが新鮮なほど,氷で急激に冷えることによって,身がピリッと弾けてきます。この食感がいい。
なお,使用する水は,当然“良い水”が良い。が,なければ水道水でも結構。使用する氷についても同様。できればカルキ臭がせず気泡の入ってないぶっかき氷がいい。
この料理は,“水”も調味料のひとつなのだ。

さて余談ですが,出来上がりはほとんど同じ体裁なのに,ここでなぜ,ボウルとお椀を使い分けているのでしょうか。つまり,Aは,溶き水のほうに味噌加減をしなければならないので,各自が味噌をいじくるのは面倒なのでまとめて作った方がよく,そしてBは,先に多量の水を入れてしまうと,そこに入れる原料が足りなくなる可能性もあるので,各自のお椀単位で調味加減をする,というわけ。
味覚上の違いもあると書きましたが,その他の使い分け理由として,野外など大人数でワッと食べるときにはA方式でドッと作るし,自前ないし数人でやるときにはB方式でやるのが便利でもあるのです。B方式だと,そのままツマミにもなるのでよろしい。1回で2度おいしい。

この料理は,食べ方といいますか,作法が大切。
すなわち,氷を入れてガーッとかきまぜ,“冷えばな”を一気にズルズルと音を立てて吸い・ときどき噛み・飲みくだす,ということ。まごまごしてたら氷が溶けて,味が変わってしまうのです。炎天下,小さいお椀で,3杯立て続けにおかわりしたところで,ふうとひと息つくのは快感至極。セミもやかましく鳴いてるし,木陰でそよ風も吹き出した。こいつをやらねば,夏は終われん!



魚涼味2【水 貝】

“ミズガイ”とは,不思議と涼しげな音であり,「水貝」の字面もよいではないか。
そしてこれも,千葉県房総半島を発祥とする,味覚のみならず視覚・聴覚・触覚のいずれにおいても全面的に夏の料理なのである。そしてその名のとおり,水も調味料である点において上記の水なますと共通。

夏の貝の代表と言えば,磯には女王格のアワビと歩兵格のサザエがおり,いずれを用いてもよいのだが,できれば大ぶりの「メガイ」が柔らかくて甘味があってよい。ちなみに,地方の魚市場で裏返しにしたアワビの肉の色を指して,この黒っぽいのがオス,茶色っぽいのがメス,なんてことを教えるオッチャンを見ることがあるが,信じてはいけない。
比較的殻の高さがあって楕円気味で肉表面が黒っぽいのは「クロアワビ」(東北以北ではエゾアワビ),高さが低くて円形に近く肉表面が茶色っぽいのが「メガイ」,更に最近は少なくなったが,メガイに似ているが殻の高さがしっかりあって殻に並ぶ呼吸孔がぐっと立ちあがっているのが「マダカ」という。それぞれ違う種類であり,これが日本の三大アワビ。これらの子分格に「トコブシ」がいるが,これは肉質がかなり違うので,マズイとは言わないが,あまり生では食わず,煮て食うのが旨い。
上記4種の中でも,メガイは比較的安く,入手しやすく,肉質もクロアワビより柔らかく肉量も多い。水貝にはこれを使う。

しかし,安いとは言っても,やはりアワビだ。高い。
でも,うっかりどこかで一万円札を落としてしまったことを思えば,けっこうすんなり買えるのである。なぜなら,その1万円は紛失してしまったはずのお金であり,もともと手元にないはずのお金である,と決めたのだから。金を失ったはずなのに逆にアワビが手に入ってラッキーではないか。高いサカナはこうして買うのだ。節約はほかのことですればよい。

①ガラス鉢など深い器にたっぷり氷水を入れ,粗塩を加えて濃いすまし汁程度に調味する。

②アワビは活きたものを用い,殻の間にしゃもじを差し込み,肉をはずす。

③内臓は,切り取ってブツ切りにしたら別途,小皿の酢醤油に浸しておく。これもツマミとなる。

④およそ2㎝強の角になるよう大ぶりにアワビを切って,鉢の氷水にころがし入れる。

⑤キュウリを1本分スライスして浮かべる。

これだけだ。これを料理と呼ぶのかどうか。
現に,房州では,水貝をつくる,とは言わない。水貝をやる,と言うのである。

⑥湯豆腐用の小さな網シャクシなどあれば上品で結構だが,直接箸を差し入れて,箸先に当たる氷を感じながらアワビをつまみ上げるのも涼味のうちだ。ひとつの鉢に向かい合う相手がいるとき,自分の箸を舐めたりしない心遣い,これがまたいい。心が涼しくなります。
そのまま食べてもいいし,ワサビ醤油でもよい。全部食べたあとの白く薄濁った氷水,これを飲んだりするのはおやめになったほうがよろしい。フィンガーボールの水は飲まぬほうがよいのと同じ。

この水貝の最大のポイントは,「アワビを大きく切る」ということだ。なぜか。
貝類にも神経があり,むろん痛みも感じるのであるが,我々「中枢神経系」をもつ脊椎動物とは神経構造が異なり,痛覚も触覚も全身にまんべんなく分布している。これを「散在神経系」という。従って,どこを切っても痛がるのです。そして,包丁を入れる回数が多いほど,痛い痛いと身を縮める。どんどん身が堅くなる,というわけ。だから,大振りに切る,ということになる。

その観点から,よく料理本に載っているような,「アワビを粗塩でこする」とか「ごしごしタワシで洗う」などという処置は,私は「大反対。」である。わざわざ堅くしてどうするのだ。
ハッキリ申し上げましょう。生のアワビを最も柔らかく食べる方法は,海から獲りたてのアワビの身を即座にはがして“まるかじり”することである。歯がスーッと通る。噛んでいくとミルクにも似た味わいでどんどんこなれていく。本職の海女はこれを知っている。でなければその道50年のベテラン海女が,生アワビを食えるわけがない。その流れから生まれたのが,水貝という料理だ。アワビは,指の腹で優しく手早く洗ってやってほしい。

なお,サザエで水貝をやる場合,「貝剥き」という道具を用いて渦巻きの中心奥にある貝柱を断ち切って身を取り出すか,技術がなければタオルでくるんでハンマーで割ってもよい。
内臓を切り除き,身を一周包んでいる薄い肉膜,これが苦さの根源なので,これも切り取るてサッと水洗いする。そして,身をタテに半分に切ったら,あとはアワビと同様。サザエの磯香にはワサビ醤油よりレモン醤油が合う。



魚涼味3【さつま】

「さつま」と言えば連想するのは,サツマ芋は別として,さつま揚げ?,さつま汁?
これらはいずれも鹿児島の,前者はサカナのすり身を油で揚げたもので九州では「天ぷら」といい,後者は,やはり鹿児島の,豚や鶏肉を根菜類を中心に味噌で煮た汁のこと。
ここで言うのは,愛媛県は宇和海沿岸でつくるサカナを用いた汁の「さつま」なのである。最近では観光客向けに“さつま汁”と呼ぶ傾向もあるが,現地では「さつま」は「さつま」なのであって“汁”はつけないのが普通。「伊予さつま」とも言われているが,現地ではこの言い方をほとんど聞いたことがない。
さつまは,焼いたサカナの身を、味噌と煎りゴマと共にすり鉢で擂り,ここに水と薬味を加え,これをご飯にかけて食べる汁のことだ。先述した水ナマスと違って生の魚を使うことはない。

余談ながら、この語源には,薩摩すなわち鹿児島から伝承したのでサツマであるとする説があるが,あちらのさつま汁は既に述べたように,畜肉を用いた麦味噌汁である。
近隣を見渡して似たものといえば,宮崎の「冷や汁」があり,この作り方はほとんど同じであるが,こちらの冷や汁には砕きつぶした豆腐を加えるのが特徴だ。つまり,「さつま」に似たものは「薩摩」には存在せずに「宮崎」にある。あるいはかつて,宇和島から見た対岸の九州の大地を「さつま」と総称したのであろうか??? 定かではない。
ちなみに九州の大分には「リュウキュウ(琉球?)」なる主に刺身に切ったサバを用いた一種のすりゴマ醤油漬けが存在するが,これもまた語源はナゾのままなのである。

もうひとつの説はサツマは「佐妻」であるというもので,「佐」は“助ける”の意であり,忙しい日常仕事の中で作り置き,サッと飯にかけて食えるさつまは,妻にとってはホント助かりますわ,ということ。

たしかに,宇和島沿岸を旅するとわかるのだが,リアス式に入り組んだ半島の斜面のほとんどが,かつては「段々畑」であった。一番下の道から細い半島の尾根の先端まで,両斜面が全部,海から拾った石垣で組まれた段々畑だ。この地方では「耕して天に至る」という言葉が残っている。今では放置されているところも多く,歴史を伝える迫力の写真が残るのみ。その写真集の名は,まさに「耕して天にいたる」だ。

半農半漁とはいえ,これを一家で切り盛りするのは並大抵なことではないはずだ。メシやオカズは作り置きして手の空いたときにサッと食えるものがありがたい。そういう意味で,「佐妻」説は説得力を感じるし,現地の人々が“汁”をつけずに単に“サツマ”と呼ぶのとも関係がありそうだ。真相はさておき,そうであるならば,いい名前をもらった、料理だと思う。

ま,いずれにせよだ,
さつまは,今では宇和島市街の観光レストランなどでも供されるが,もともとは郷土の家庭料理である。宇和島の遊子(ゆす)という漁師町に滞在した折り,泊めてもらったブリ養殖漁家での朝,お母ちゃんが,さつまがたっぷり入った大きなタッパーを冷蔵庫から出してちゃぶ台の上にドンと置くと,3人の子供達めいめいが,自分でご飯をよそい,各自さつまをかけてカッ込み,行ってきマースと元気に学校に飛んでいった。そして残された我々も仕事前の“さつま”をサッと食って沖へ出たのであった。
このように完全に日常に溶けている料理であり,やはりその家々によって入れるものが違ったり,作り方にひと工夫あったり,があるようだ。
ここで,宇和島のお母ちゃんに教わったさつまの作り方を紹介したい。

①カマス,アジなど,白身系のサカナを素焼きにし,その身をすり鉢にほぐし入れる。骨を除くのが面倒くさければ,あらかじめ3枚におろした身を焼けばよい。これをすりこぎでつぶし,擂り始める。

②ここに煎りゴマを加え,更に擂る。粒子がこなれたところで麦味噌を加え,更に擂る。

③粘り気が出て,逆さにしても落ちなくなったところで,擂り鉢の内側に薄くのばし,火にかざして表面を軽く焼いて香ばしさを出す。時間がなければこれは省略しても差し支えない。

④ここでお母ちゃんは,「一度沸かして冷ました水」を少しずつ注いで溶かしていく。湯冷ましを用いるのは,カルキ臭を除去するのと,もうひとつは,かつて井戸水を過熱殺菌して使っていた頃の名残であろうと思う。たしかに生ものには違いない。
水を注ぎ込む量の目安は,溶かしていきながらドロッとする程度。あまりサラサラにしてはいけない。

⑤これに糸こんにゃくを3㎝ほどに切って一度茹でこぼして冷やし、水気を切ったものを加える。これを冷蔵庫で冷やしてできあがり。ここに更にスライスしたキュウリや刻んだ青ジソを加えることもある。これも風味が良い。お好きなように。

これを,温い飯だろうが冷や飯だろうが,ぶっかけて食うのみ。
宇和島の家庭の味だ。今日も家々で、家族がさつまをご飯にかけている。
夏の朝,今日も一日働くか!という気になってくるから不思議。
そんな生活の中の食べ物です。



魚涼味4【イカの冷やしトマトスープ】

当家の過去ログ「あれやこれやのイカを食う」で,さんざんイカ料理について書いたので,もう当分はイカについて書きたくないのは事実。このお題は「トマト」が主役です。でもサカナ料理にも化けます。
夏野菜の王様トマト。露地物が出始めると味も香りも最高だ。振り返ればいつも夏の思いでと共に,常に青臭いような甘いような,お日様のような,独特の香りが漂っていたような気がする。夏に何回かはこれで冷たいトマトスープを作り,ほてったカラダを休めてやる。

①できれば露地物,のトマトのヘタをとる。

②ボウルにニンニク一片およびタマネギ1個分をみじん切りして入れ,軽く塩でもんでおく。これでタマネギの辛味はとれて甘くなる。

③ここにトマト数個をたっぷり手でよくつぶし入れ,粗挽きコショウを振り,全体をよく混ぜる。トマトの皮が残っても構わない。

④混ぜながら粗塩を加えて濃いめに塩加減する。塩の粒が残らぬように注意。

⑤ここに多めの氷を投入し,ガラガラと混ぜて,味が薄まって丁度良くなったらできあがり。

これだけ。なんだそれではトマトスープではなく“つぶしトマト”じゃないか,とおっしゃっられても結構。名前がなんだろうが,この旨さには勝てぬ。これは「食べるスープ」だ,と強弁させていただく。

ここではニンニクとタマネギを入れたが,ニンニクだけでも旨いし,トマトだけでもそれぞれに旨い。香り付けにオリーブ油少々をたらしてもよいが,トマトの香りは消える。
塩と黒コショウで味付けしたトマトの氷和え,にも見えますねえ。だが,これが合うのだ。きめを細かくしたければ,トマトをおろし器で摺り下ろしてもいいが,味は,手でつぶした方が上だと思う。お試しあれ。

⑥ここに,適当に小さく切って塩水でサッと茹でて冷やしたイカの胴身を混ぜてやると,ほーら,サカナ料理になりました。いい加減なようだけど,味はホンモノ。
夏の河原のテントの下なんかでこれを作ってたっぷり食うのはホントに旨い。

ところでこれ,房州の水ナマスのトマト版,にも見えますねえ。
おもしろいでしょ?古今東西を問わず「料理の理,は芋ヅル式」,なのです。



魚涼味5【塩マグロの冷やしかけ飯】

これを初めて作ったときには,我ながら,食って思わず唸ったものです。それほどに,シンプルながらよくできた料理になったと思う。あまりに涼しく旨いので謙遜するつもりはござらぬ。
と,もったいつけて本邦初公開。
お店経営の方,マネして出して自分の考案ですなんて言っちゃあダメよ~。
冗談ですが,早速作り方を書きましょう。

①マグロは種類は問わない。安くてボロな赤身でよいから,これを1サク買ってくる。

②サクを,繊維に添って長さ5㎝,幅5㎜前後の短冊に切る(繊維を横に切ると,あとで加熱したときにバラバラになってしまうので)。

③これをボウルに入れ,シメサバを作るときくらいの強い塩で和え,30分ほど置く。

④肉の水分がにじみ出た頃を見計らって,中鍋に強火で湯を沸かし,塩マグロを投じ,長ネギの青い部分を一束分放り込んでおく。

⑤再沸騰したら,吹きこぼれないように火加減し,ひたすらアクをとり続ける。

⑥最初は白濁したスープが,アクをとり進むほどにだんだん澄んできて,スキッと透明になったら,火を弱火にしてネギを取り除く。この時点で既にマグロから浸みだした旨味と塩分で味の骨格はできているので,補助的に薄口醤油少々と塩で濃いめに調味し,これに蓋をして鍋ごと水で冷やす。

⑦十分に冷めたら,ここに氷を投入し,かき混ぜて冷やす。最初にきつめの味にしてあるので,氷が溶けてここでちょうどいい加減となる。大きい冷蔵庫があれば鍋ごと冷やせばいいが,一般のご家庭ではなかなか難しいでしょう。

⑧椀にご飯を「少量」盛り,鍋の中のマグロを数片置き,冷たいスープを注ぎ入れ,小さく砕いた氷を浮かす。薬味にネギを刻んでもいいが,まず1杯めはこのままサクッと賞味いただきたい。これがマグロのダシだ。白い白磁の椀にうっすら黄金色の透明感のあるスープ,浮いた氷の光の散乱,横たわる塩マグロのさりげなさを噛みしめ,そして,ダシのほのかに甘酸っぱい香りのマグロ味と,氷によってキュッと締まったご飯粒ひとつひとつの歯ごたえと甘味。存分に味わっていただきたい。これがマグロの隠れた実力だ。ありがとうマグロ。

このかけ飯は,暑い夏の昼にも,酒後の飯としても,たいへん優れている。
実はコレ,当家過去ログの「もうひとつの塩煮」で紹介した長崎県野母崎流の塩煮の応用です。



魚涼味6【冷やしウナギの東南アジア】

これまで紹介してきたのが「氷」の力を借りた涼しい料理であったのに対し,これは氷を使わない,味覚の涼しさだ。パックで買ってきた蒲焼きウナギを,暑いから火を使わずに涼やかにソーメンなどと一緒に食いたい,というときのひと工夫。

熱くないウナギ料理としては,日本には古くからウナギとキュウリの酢の物である「うざく」があるし,ウナギを芯に巻いた厚焼き卵「うまき」も冷めたものを食うときがある。
ここでは東南アジアなどと言っているが,要は常夏のタイランドやインドネシアに代表される味の構成「甘くて」「辛くて」「酸っぱい」ということだ。このアマカラスッパが食欲の減退した時にウナギの滋養味とよく合うし,涼味という点では“うざく”とはまた違った良さがあるのだ。なんせ夏の国のテイストですから。

まあ、サバのリュウキュウがあるのだから,ウナギの東南アジアがあってもおかしくなかろう。などとくだらん解説してないで作り方を早く書きなさい。はい。

①市販の蒲焼きウナギは甘いタレがかかっているので,サッと熱湯をかけ流し,水でスバヤク冷やしてペーパーで水気をとっておく。

②ウナギはタテ半分に切り,それを小口に1㎝幅に切っておく。

③ボウルに豆板醤,醤油及び味噌少々,ミリン少々,レモン汁半個分を調合してアマカラスッパのたれを作る。三味のバランスは各自で加減する。ここに切ったウナギを和えて味が浸みるまでしばらく置く。

④別のボウルにウナギを取り出し,カイワレ,ミョウガ,刻みネギと共にざっくり和えて出来上がり。好みでゴマ油をひとたらし加えてもよい。

これをザクザク食うのがいいんです。ご飯にも合うし。もっともこれはソーメンの具として作ったものですけどね。冷えた皮の弾力と噛みしめる時にジワッとにじみ出る旨い脂が,イケます。

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あ~,涼しい料理を書いてたら,少し涼しくなりました。
というわけで,皆様にもこの涼しさを,おすそわけ。

ガンバッテ夏を乗り切ってくだされ。  

Posted by ウエカツ水産 at 21:15Comments(4)魚・料理

2007年08月09日

真夏のサンマ

夏も盛り,早くも日が短くなりつつある8月。アユも食いたいけど,実はこの頃のサンマがいい。一尾250円くらいするか。でも買います。実際ワタクシも,本日,買いました。しかし,なぜサンマが夏なのか,という疑問もおありかと思うので,そのへんのお話しを少々。

一般的に「サンマの旬は秋である」というのが社会通念ではあるが,この夏の時期,私が待ちこがれるのは“北海道から入ってくる生のサンマ”だ。スーパーのサンマ祭りで一尾100円とか50円とかで大量に出回るのが10月頃ではあるが,今の時期の北海道のサンマは,味の上で格が違う,まず漁法からして違うのである。

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【 サンマにおける漁法の違い,およびその味 】

サンマが秋だ秋だと騒いでいるのは,よく獲れるし,安いし,脂が乗っているし,といったズバ抜けてリーズナブルな庶民性による。最近イワシが獲れなくなった,サバもいまひとつ増えてこない,などと言われている傍ら,老若男女,貧富の差なく,我々を裏切らないのが秋のサンマである。

ただ,サンマの漁期は,我々が言うところの夏から始まっているのだ。
通常,サンマ船というのは100トンクラスの大型船であるが,夏サンマを獲るのは北海道は根室に在する小型船。これは「刺し網」でサンマを獲る。船も小さいし,大量には獲れない。浮きの付いたカーテン状の網を長く洋上に流し,そこを横切るサンマが網目に頭を突っ込んで抜けなくなって捕まってしまう,という漁法なのであるが,この時期,根室沖に来遊するサンマは,これで獲る。
8月の根室沖のオホーツク海は,栄養豊富で水温の低い親潮の影響が強く,サンマは脂肪分の多い北方系のアミ類を飽食している。これが旨さのヒミツだ。ぶりぶり肥えている。秋サンマだって脂が乗っているとは言うが,その比ではない。幅が広く大ぶりで,相対的に頭が小さく見えるのが特徴。

対して秋サンマ。これは「棒受け網」という漁法で獲る。根室から太平洋側を南下して釧路,三陸沖,更に下って銚子沖まで,サンマは回遊し,これを大型船が追いかけていく。
船の一番高いところには大型のライトが設置され,それを操作してある程度サンマを集めたら,船の片側に煌々と灯りが点灯する。その反対側では,太い二本の棒に支えられた“すくい網”が,静かに水中に敷かれるのである。次に,それまで灯していた片側の灯りを徐々に消すと同時に反対の網を敷いた側の灯りを徐々に点灯していくと,サンマの群れは網の上に集まることとなる。十分サンマの群れが集まったところで,スイッチを切り替えて,一気に白灯から赤灯にすると,“ジャッ”という音をたててサンマの群れが水面に“沸き上がる”。この沸いた瞬間を逃さずに網を揚げてしまうのが、サンマ棒受け網のしくみ。

この漁法で獲られたサンマの味覚上の特徴は2つ。
ひとつは,南下するほどに,脂が落ちていくということ。
もうひとつは,網の中で大量のサンマが体を擦り合いあっぷあっぷするので,仲間のウロコを腹一杯に飲み込んでしまうことだ。
従って,いくらサンマはハラワタが旨いと言われても,棒受け網で漁獲されたサンマのそれは,小さな丸いウロコが充満していて食えば口の中でジャクジャクする。肉はなんら問題ない。

以上のように,結局,サンマ最高の「味の旬」は夏,である。対して秋は「漁獲の旬」だ。
サンマに限らず,サカナには「味の旬」と「漁獲の旬」の二つがあるということを,覚えておくと料理に活きる。更に「味の旬」について追求すると,年間を通じてみれば,多くのサカナの旬は1回ではない。大雑把に言うと産卵の少し前と,産卵後の体力を回復しきった頃の2回。たとえばイサキの旬は,夏の産卵前,まだ卵巣が熟し切っていない梅雨頃と,産卵後かなり時間がたって完全に回復した冬の頃,の2回であり,前者を“梅雨イサキ”と言うし,後者を“寒イサキ”というが,このようなことについての解説は別の機会に譲る。

それにしても,サンマが「刺身用」として出回るようになったのは,いつの頃からだろうか。ちょうど15年前,就職面接で長崎から東京に出,どこかで入った酒場で「サンマ刺身」の品書きを見て,塩サンマしか知らなかった私は注文し,食って仰天したものだ。それが,今や半ば常識のように,刺身にできる高鮮度のサンマが全国に流通するようになった。クール便の発達はこれに大きく貢献した。
ここ境港でも然り。関東に居た頃はさておき,まさか夏の時期の刺身用生サンマを,ここで食えるとは思わなかった。嬉しいが,半ばフクザツ。少なくとも“じげの味”ではないから。しかし旨い。

ここでさっそく,サンマ料理の王道である「塩焼き」について述べたい。

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【 夏サンマの塩焼き,およびその味わい 】
①刺身用の夏サンマを入手したら,まな板に置き,姿を眺め,まずニンマリと笑う。緑がかった背の群青色,豊かに幅の広い腹の銀色などを,まず,目で味わってほしい。
②しかる後に頭をつまんで持ち上げ,腹の中ほどから肛門に向けて親指と人差し指で軽くしごく。そうすると腸の後半に入っている消化物,いわゆる“糞”が肛門から流れ出るので,ここでサッと流水で洗い,表面の水気を拭く。この糞は,濃く赤みがかったオレンジ色をしている。これこそがアミ類を食べている証拠。
③塩を浅めに全体にまぶし,10分ほど置く。
④炭火で焼くのはそりゃいいでしょうが,日常ではグリルでよい。あらかじめ熱し,強めの中火に調節したら,あらためてサッと塩を振ったサンマを横たえる。グリルが小さいか,あるいはサンマが大きいか,いずれにせよその場合は,ナナメに入れればよい。
⑤焼き加減は,まず表側(頭左,腹手前)を表面が乾く程度焼いたら,裏側(頭左,腹向こう)に返し,7割焼いたら,再び表に返して焼き上げる。焼き上がりの目安は,「サンマの皮が自らの脂でこんがりしたあたり」だ。焼きすぎれば脂が落ちてバサバサになってしまうのでご用心。
⑥焼き上げたサンマを皿に移すとき,崩さないように気を付けなければならない。なぜなら,秋サンマと違って隅々まで脂が乗っているので,肉も関節も全体が柔らかいのだ。スバヤク,そっと優しく扱ってやる。
⑦皿に横たわった夏サンマは,まだチリチリと音を立てているはずだ。ここで醤油や大根おろしをかけてしまうと,せっかくの焼きたてがだいなしとなる。
すかさず箸を入れると,サクッとした箸触りがあり,一口分の皮と肉を骨から持ち上げると,ポッと湯気が立ちのぼる。これをまず,口に入れるのだ。ひとハシめは,肛門の前後がよい。なぜなら,厳密にサンマの各部位を味わっていくと,この部分が,腹の後方からしみ出した脂と肛門後方の豊かな肉感との両方を同時に味わえるからだ。最も脂が乗っており,かつ肉とのバランスがよい。肛門の前後3㎝だ。
通常,一番おいしい部分を最後に残しておく人が多いが,焼きサンマの場合,この一番の部位は,焼きたてで味わうべきだ。椀は煮えばな,サンマは焼きたて。
⑧そこから適宜両サイドに食べ進めていくわけであるが,次はぜひ横に長い腹の上の身をガサガサと腹の小骨ごと噛みしめ,それが終わったらピンクのかわいい小さな胃袋,および横に長いたっぷりした褐色の肝臓をそれぞれ味わてほしい。太く長い肝は,トロリとビックリするような味わいだ。そして,残りの内臓に,シッポのほうの淡泊な肉をまぶして食べてみることをオススメしたい。濃厚な旨いスープをパンで拭って食うのと同じ。
⑨これで片側をひととおり味わったら,ようやくひと息つけるというものだ。おもむろに頭をつまんで上に引っ張り上げれば背骨がスラッとはずれる。あとは適宜後半戦を楽しめばよい。さて,どこからいきますかな,焼きサンマの最高の味は最初に既に味わってしまったので,いくぶん余裕が生まれている。
⑩サンマを食う描写で夢中になって肝心なことを忘れていた。一般的にサンマには大根おろし,となっているし,レモンをかけたり,昨今はポン酢なんか,かけちゃったりしているが,水っぽくするだけなので,おやめなさい。
こと夏サンマの塩焼きに合わせるのは,カイワレ大根のみ,でよろしい。

ついでだから比較のために秋のサンマの塩焼きについても書いてみようか。

【 秋サンマの塩焼き,およびその味わい 】
秋サンマは夏サンマに比べて脂が落ちている。体型も若干細め。背の緑色は失せ,藍色を呈すのみ。夏サンマと比べると,腹の銀色も少々くすんでいる。が,安くて旨い,やはり庶民のサカナだ。
①前処理と焼き方は同じであるが,夏サンマほど脂は乗っていないので,“崩れてしまいそう”というようなことはない。焼き上がりを加減して,ポンと返してサッと皿に移せる。
②まず焼きたては,既に述べた「片側の肛門前後3㎝」,これは速やかに味わうべきだ。夏サンマほどではないにしろ,やはりここが“かなめ”なのだ。ただ,それ以後が夏サンマとは違うところ。まず頭をつまんで起こして背を上に維持し,頭の後ろからシッポまでポン,ポンと,押さえていく。この間,頭をつまんだまま。そこで背ビレあたりを箸先で割って頭を上方にゆっくり引っ張っていくと,スルスルッと背骨がはずれてしまう。すなわち“骨なしサンマ”の出来上がり。
③秋サンマは,既に述べたように,大群を「棒受け網」で漁獲するため,ひしめき合ったサンマは,はがれた仲間のウロコを大量に飲み込んでしまっており,従って,食べれば“ジャクジャク”するのである。というわけで,内臓は,この際,食べなくてもいいではないか。ホントの味が出ないのであるから。そのかわり,ここでひとつ,塩焼き秋サンマの旨い食い方を紹介させて頂く。
④まず,丼に6分目の大根おろしをたっぷり用意する。9分目すり下ろしたら,手を添えて軽く水を切れば6分目になる。ここに,極薄切りの秋キュウリ一本分を混ぜて,レモンないしスダチを絞り込む。ここに,先ほど骨抜きにした秋サンマの皮および身を大ぶりに砕いてドシドシ加えたら,醤油をツーッとかけ回し,ザックリ混ぜる。これが,秋サンマの「焼きナマス」。これは脂の乗った夏のサンマではクドくていけない。脂がほどよく落ちた秋サンマがいいのだ。一口ほおばれば,ホーラ,どっかから虫の声が聞こえてきますぞ! 秋の夜酒にもイイ。酒後の飯にもいい。まさに天の采配ナリ。

どうです?
結局,サンマは夏がいいとか秋でなくちゃといったことではなく,ちゃんと,季節に応じた味わいがあり,それに合わせる野菜もあり,恵まれております人間は,ということですな。

更についでながら,サンマのちょっといい食べ方を紹介しましょう。秋が来て,サンマが安くなったらお試しあれ。蒲焼き,なんてのは月並みなのでね,凝ってなくて,ちょっと気の利いたヤツを,3品。
おっと,その前に,サンマを生食するときの処理を書いておきましょう。

【 サンマのおろし方 -産地流- 】
①秋サンマを氷水から取り出したら,洗わずに,まな板に寝かせ,頭を持って,腹が上になるように立てる。
②肛門の少し後ろから包丁を入れ,頭の方へ向けて,ちょうど内臓が入っている部分をそのまま腹身ごと切り取ってしまうようなカンジで,包丁を進めていく。
③頭の付け根まで切ったら,包丁を立てて,頭を落とす。この作業によって,切り離された頭には腹身およびそれに包まれた内臓がくっついている状態,体のほうは内臓部分がズッパリ切り取られた“棒身状態”となるはず。ここで,流水でサッと洗う。
④この棒身を,頭の方から背骨に添って大名おろしで3枚に切る。
⑤刺身などで皮を剥く必要がある場合は,おろした身の頭の方の皮を指先で少しめくり,皮側を下にしてまな板に置いて皮を左手の指先で押さえ,包丁の刃,ではなく,包丁の背,を,包丁を立てて皮に押しつけて向こう側に動かしてやると,クルッと身が皮からはがれる。包丁は切る以外にもいろいろ使い方があるということだ。
この方法でやると,身の銀色がきれいなままだし,手で剥いたときのように皮に身が残ってしまうこともない。かといって,タイなどの皮を引くときのように,包丁の刃を使ってやると,皮のほうが途中で切れてしまうのである。
この手法は,他の皮が薄いサカナ,たとえばアジ,イワシ,キス,サヨリなどに効力を発揮する。
⑥皮を引いたら,身の水気をペーパーでとっておく。
⑦切り取った腹身は,頭を切り離し,内臓を取り除き,そのまま塩焼きにしてもいいし,これのぶつ切りに塩をしておいて,すまし汁にしてもよい。腹身は小骨を含んでいるので,包丁で叩いてすり鉢で擂って味噌と刻みネギを加え,団子にする人もいる。

この方法は,気仙沼や石巻などサンマの産地なら,料理屋でもオカーちゃんでも誰でもやっている。

さて,ここからがオススメ料理の部。

【 サンマの塩ナマス 】
①三枚におろして皮をひいたサンマを,シッポの方から5㎜ほどの幅でナナメに細切りにする。
②タマネギを適量スライスし,水にさらさずに,細切りにしたサンマと共にボウルに投じ,日本酒ごく少量と適量の粗塩で和える。塩加減は味見をしながらでよいから最適量をつかむこと。
③和えるうちにタマネギの辛味が消えて甘味に変わる。そこにサラダ油をごく少量たらし,再度ざっくり和えたら出来上がり。

ビックリするほどカンタンで,なんで・こんなことで・こんなに・・・,とつぶやくほど旨い。食べ残したら,少量の酢をかけ混ぜて冷蔵庫に入れておけば,翌朝醤油をたらしてご飯のオカズにもOKだ。

【 棒塩サンマの酢洗い 】
これは,石巻のサンマ漁船「大慶丸」を雇って西オーストラリア沖でマグロの調査をしたとき,そのサンマ船の乗組員が,その年獲れた冷凍サンマをこのようにして食べていた,という料理。まずは作り方。
①「サンマのおろし方」のところで述べた棒身状態にしたサンマを,三枚におろさずにそのまま指で皮を剥いてしまう。要は丸ハダカの棒身にする。
②これをサッと洗ったら,水気をふいて,粗塩を濃いめにまぶし,一晩置く。

これだけ? これだけ。
どう食べるかというと,,,
船ではこうする。大きなバットの上に大量の塩棒サンマが積み上げられ,ドンと置かれる。その傍らに,一升瓶の酢がドン,と置かれる。更にその横に,お椀がたくさん重ねられている。
食卓に着いたら,めいめいがお椀をとり,酢を注ぎ,別の皿の上で棒塩サンマのシッポをつまんで,箸でシッポ付近から頭の方へかけて身をシゴキとる。この身を椀の中の酢で洗って食うのである。こんな料理(?)であるから,見ていると食べ方もいろいろだ。少しずつ身をほぐして味わう年配の人,一気に大量に身をほぐして一気に酢に浸けてほおばる人,ソレで飯を食う人,酒を飲む人,等々。シンプルなゆえに,自由度が高い。そして,これもビックリするほど旨い。特に,身をシゴキ取ったあとの,骨についている肉をジャブリ食うのは最高だ。

とはいえ,一般家庭で長いサンマを各自が一尾ずつしゃぶるというのはどうも,というのであれば,皮を剥いた棒身を,骨ごと5㎝くらいにぶつ切りにしてから塩をしておけばよろしい。以下は同じ。

【 サンマの梅煮 】
サンマは青魚の仲間であるから,むろんサバやイワシなどと同じく酒・醤油・ミリンで煮付けてもよいのだが,ちょいと季節的に重い感じがするのだ。
秋には秋のサンマの煮物があっていい。夏の名残の爽やかさ,そして秋に至る郷愁,のような。
①サンマは頭を落とし,肛門の前で半分に切り,頭側から流水を当てて内臓を洗って抜く。尾びれは切り落としておく。
②鍋に酒と水を半々に割って沸かし,そこにたっぷりのショウガの千切りと,数の梅干しを指でつぶして種ごと加える。更に沸かし,ミリンで甘みを整える。
③ここに下処理したサンマを投じ,強火のままアクをとりつつ煮,アクが少なくなったところで弱火に落とし,薄口醤油少々で丁度良く味を整え,フタをして煮冷ます。

この煮物は,熱いヤツも悪くはないが,ぜひ,冷まして味が染みたものを,更に冷やして,味わってみてもらいたい。梅とショウガの香りがする冷たい下地をちょっと吸いながら,またその下地に箸でつまんだ肉を浸しながら,食うのは秋の悦楽と言える。

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最後に,秋の安いサンマをついつい沢山買ってきたときに,家で作るおいしい塩サンマの作り方を記して終わる。

【 自家製塩サンマ 】
①サンマは頭を落とし,肛門の前で二つに切り,頭側の切り口から強い流水を当てると内臓が抜ける。
②これらを,強めの粗塩でまぶし,一晩置く。
③焼く前に,表面の水分をペーパーで拭いてから焼く。

これだけ。
サンマには,凝ったことは一切いらない。そんなサカナだ。
こうして作った塩サンマは,焼き目の美しさ,皮の香ばしさ,肉のみずみずしさが,チガウのだ。

そして,その塩サンマを使った,おいしいおつゆを一品。

【 塩サンマのおつゆ 】
①鍋に水をはり,大根の千切りを投じ,強火で沸かす。
②沸いたら5㎝ほどに骨ごとぶつ切りにした塩サンマを投入する。
③アクをとり,それがあまり出なくなったら中火に落とし,薄口醤油で味を調える。
④そのままでもよいが,薬味として刻みネギ,摺りショウガほんの少々を加えてもよい。

これも、これだけ。

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いやー,酒から飯から吸い物まで。やっぱりサンマは庶民の味方だわ。
いいね。
  

Posted by ウエカツ水産 at 23:46Comments(13)魚・料理・水産

2007年08月08日

サカナの鮮度(維持・保存)

夏だ。暑い。食べ物が傷む。
転じて我々釣り人が旨いサカナを食おうと思えば,この季節ほど釣ったサカナの管理に気をつかう時期はない。

日本は,「魚の鮮度にこだわる」という意味では世界一だと思う。
というのは,原始より魚の生食文化が定着し,刺身,焼き霜(タタキなど),湯霜(湯引きなど),ヅケ(醤油漬けなど),その他ナマスなど和え物等々,というカタチで多様化し,生魚を切っただけの原始的食形態が「料理」と呼ばれるまでに昇華したところにある。これを支えた先達の精進による技術の発達,道具の進化があったことは言うまでもない。

いかなる料理であっても,素材をどのような状態に保つかは,万国共通最初の課題であるが,こと日本の魚食を語ろうとすれば,刺身という特化した「生食」の分野に耐え得る処理・保存法が重要なぶん,その他の加熱調理に対応した処理・保存などと分けて考える場合もあり,若干他国より複雑である。更にサカナ旨み道を追求すれば,「生きて泳いでいる魚をどのような方法で獲り,その後どのようなタイミングでどのような一次処理を施したか」が極めて重要で,総本舗を名乗る当家としては,そこにこだわる視点に至らざるを得ない。

俗に,イチ・生,ニ・焼き,サン・蒸物,ヨン・が煮物で,ゴ・に揚げ物,と。これは,鮮度の良い順に,どのような調理法に適するかという言いならわしであり,魚種やサイズによってはすぐに食べるより暫く寝かせたほうがいいとか,種類によっては生と蒸し物が同列であるとか,いろいろあるにせよ,まあ概ねこんなところではある。しかし,鮮度が高く維持・保存されているほど,当然いずれの料理にも対応可能であることに変わりはない。中期保存方法のひとつである干物の原料にしても鮮度の良し悪しが大きく影響する。やはり「一次処理」およびその前後が大切なのだ。

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【漁法によるストレスの違い】
サカナを“良く”食べようとするとき,その条件設定は,漁法から始まっている。
サカナが漁獲されるとき,我々が食用とする筋肉は,脳の感じるストレスと非日常的運動の両方から影響を受ける。いずれの場合も筋肉中には疲労物質が発生し,そのままにしておくと肉質を低下させる。だからこそ,ひとつは漁法によってサカナの評価が決まるという世界もあるのだ。まずは代表的な漁法によるサカナへの影響を考え整理してみたい。

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【 釣り 】
我々がやる竿と糸の釣りから,たくさんの枝縄に釣り針を付けた“はえなわ”まで,釣りにもいろいろであるが,掛けてから生け簀に活かしたり氷水に漬けたりするまでの時間がサカナの質に関与する。その点,一本釣りであれば速やかに処理できるが,はえなわでは掛かってから苦しむ時間が長いぶん,質は低下する。カサゴやタチウオなど「釣り物」として高値で魚屋に並ぶのを散見するが,これはたいていはえなわ漁業によるもので,その漁業の特性というより,漁獲後の扱いの丁寧さで格が上と言えよう。
私が日常的な釣りをする場合,いかに暴れさせずに,糸を切られることなく,そのバランス点を探りながら手中に収めることを第一義としている。よく言われる“引きを楽しむ”ではなく,そのような技の中に引きの楽しみがあるのだ。メバル釣りにしても,ほとんど音をさせずに抜き上げる技術がある。そうして獲って処理したサカナは,当然最高の状態であるし,日持ちもする。

【 定置網 】
この漁具は,サカナが泳ぐ経路を遮断し,箱形の網に陥れる定置漁法であるため,網の中に入ったサカナ達も,捕まったことを気づかずに網の中で食ったり食われたりするものあり,魚種によっては,たとえばブリなどは一生懸命逃げ口を探して右往左往している。
ストレスがかかるのは網を上げるときだけであるし,たいていは一日一回網を上げるので,網で体が擦れにくく,一般的にサカナの状態は良好である。その点,網を使った漁業の中では最高の品質を維持できると言えるが,やはり問題は水揚げ後の処理のことであり,定置網を上げる船によって,その処理の習慣は違う。だからたとえば,同じ半島に隣り合って張ってある定置網でも,A定置はいいが,B定置はやや格下,というようなことがおこる。たとえばA定置では活け締め作業をおこなっているが,B定置では氷水に全てのサカナを突っ込んでいる,という具合。これがどのような効果になって現れるのかは後述する。いずれにせよ,“定置モン”というだけで,ひいき目に見る事なかれ,だ。

【 刺し網 】
この網は英名をギルネット,すなわち“エラ網”,というだけあって,泳ぐ経路を遮断されたサカナが,この網に頭を突っ込んで,エラ蓋が引っかかってとれなくなったところを上げてしまう。従って必然,ストレスはもとより,死んで揚がってくるサカナも多くなる。狙いの魚種によって,浮き刺し網,底刺し網,中層刺し網,更に群れになるサカナを獲る場合には,まき刺し網といったものもある。いずれにしても原理は同じだ。体のウロコがはげているもの,また,体に絡まった網の糸アトがついているもの,これらは仮に目がキラキラしていたとしても,料理の用途に応じてしっかりと肉質を吟味すべきである。
他方,こんなこともある。サンマの旬は秋と言うが,ホントに旨いサンマは8月。一般的にサンマは「棒受け網」という,光で寄せ集めたサンマを大量に漁獲可能な漁法で獲るが,8月のそれは,サンマが暖かい三陸沖へ向けて南下する前の根室沖の冷たい海で,刺し網で漁獲されたもの。太くて脂の乗りが良くて,このときばかりは,網アトのついたサンマを探してしまうのである。

【 まき網,および底曳き網 】
この2つの漁業は,中・表層にいる魚群を獲るか,中・底層にいる魚群を獲るかの違いこそあれ,網を揚げる時には多くのサカナがひしめき合って,あるいは圧迫され,ストレスが大きいこと甚だしい点において,ほぼ同じと言える。このような漁法では,当然,一尾一尾を締めるなどという余裕はない。
しかし,いわゆる“総菜魚”として,比較的安価に大量に我々の日常生活の魚食を潤してくれることでも共通している。
これらのサカナは,揚がったときには死んでいることも多いが,後述する“野締め”として水氷で締められ,調理法に合わせてちゃんと吟味すれば,ケッコウなものなのである。
たとえば境港は全国一タイの値段が安い港であり,25㎝くらいのマダイが庶民の食卓の吸い物に,半切りして入ったりするのだが,一尾300円程度。これは定置や釣りでは実現しない。巻き網や底引き網あってこそだ。「調理目的に合わせた鮮度レベルの選択」。最適コスト最大効果を模索する上で,これもまた大切なのである。

【 潜水漁業 】
釣り,刺し網,定置網,巻き網,底引き網,ときて,なんでここで潜水?と思われるかもしれないが,実は,後述する活け締めによるサカナ以前に,現場最前線でできる処理としては,この潜水で漁獲されるサカナを適切な温度管理したものの品質が最も良い。というか,要はこの漁法は,漁獲行為と処理行為が一体なのである。潜水漁業とは,つまるところ魚突き,“突き獲り漁法”というやつだ。ここではアワビ・サザエ捕りは省く。潜っていってヤスや銛を用いてサカナを突いて獲ることだ。
遊び半分海水浴がてらシロートの魚突きであれば,魚体のどこに刺さるかわかったもんではないが,熟練の潜水士であれば,狙い違わずサカナの脳天,ないし胸元の心臓を一撃する。こうして漁獲されたサカナは,まさに泳いでいる状態から,次の瞬間,ほとんどストレスがかからないままに即殺・放血されているのである。この点,釣りや他の網漁業の魚質向上の効果をはるかにしのいでいる。荒々しくはあるが,実はこれが活け締めの原型である。
よくよく考えてみると,このあとに述べる“活け締め”とは,この突き獲り漁法の効果をいかに的確に改善して再現するか,ということであることに気づく。人間が知恵を働かせて魚質向上のためにいろいろやったあげく,結局原初の魚突きに戻るとは,いつの時代にも,原点に立ち戻ってその構成要素を見なおすことは大切だと思わざるを得ない。

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【魚を「締める」ということ】
サカナを漁獲したら,それをどのように処理し,保存するか,ということになる。既に述べた,サカナを最高に活かすことができる“突き獲り漁法”であるが,これは突き手によってバラツキがある上に,対象魚種も,潜って獲れる範囲に限られてしまう。そこで,どうするかだ。

およそ脳から背骨に至る神経,いわゆる中枢神経系をもつ生物全般に言えることだが,ひとたび脳が死んで行動が停止すると,体の各部位は,“分解”すなわち分子レベルに向かって変化を始める。特に我々がもっぱら食用とする「筋肉」は,脳死後しばらくは生時と同様柔軟なままであるが,生前の疲労物質の残量に応じて筋収縮を起こし“硬直”する。それが終了すると,筋肉内部では,それを構成する細胞自らが保持している種々の酵素によって自己分解が始まり,最終的には溶けてしまうことになる。溶けてしまえば,本来ならばこれは生態系の循環の中で,次なる生命を育むことに資する。これが地球というひとつのまとまった系の中で生きるということであり,同時に死ぬということでもある。たかがサカナを旨く保つための技術と言えばそれまでであるが,そこに命の生死観を見るのは私だけだろうか。

さて,“鮮度維持”とか“保存”という言葉は,この,生から死,そして自然界の循環に戻る過程のいずれかの段階をいかに引き延ばすか,という可食を前提とした行為にほかならない。更に“サカナを締める”とは,獲ってきたサカナを,可食かつ旨い状態にいかに高度に保つかという人間の知恵である。しかもバラツキ無くより普遍的に。
その技術について整理し,詳細を述べよう。

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【活け締め】
“活けジメ”の要諦は,①即殺,②放血,の二つが不可欠な条件であり,これに③神経抜き,④温度管理,が加わる。これは漁獲されたサカナが硬直に至るまでの時間を少しでも引き延ばして旨み成分をより多く生成せしめ,更に硬直後の分解をゆるやかにして保存性を高めてやる作業である。③の神経抜きは,これらの作業効果をより高めるための副次的処理であるが,④の温度管理はかなり重要で,これをうまくやらないと①~②ないし③の効果を台無しにしてしまう。また,①~③の処理をしない,つまり活け締めを行わない場合であっても④の温度管理は重要な課題には違いない。

① 即 殺
即殺は,特に大型のサカナを締めるときに,「その動きを止め,無用な筋肉疲労を与えないことと,脳から神経を通じて筋肉に伝わる痛み苦しみの伝達を元から絶ってやること」が目的だ。

その手法だが,よく釣り人対応の料理本,ひどい場合にはけっこうちゃんとした体裁の料理本でも,「目の後ろを出刃包丁で刺して活け締めする」などと書いてある。これは必ずしも間違いではないが,この際,きれいさっぱり忘れたほうがよい。
そもそも,目の後ろを包丁で刺して,といっても,何を目的にどこを刺すのか,わかりますか? 要は,脳を,確実に速やかに壊して動きを停止させたいのです。その脳はどこにあるか。サカナによって形状も場所も違うのである。これを理とするならば,脳を壊す役割を果たすのは,手カギであれ氷を砕くアイスピックであれ,細く尖った強固な道具でなければならない。切れ込みを入れることではなく,脳を保護している頭骨を壊すことが目的なのだから。
従って,釣り人がまず持つべき道具としては,手カギでは熟練しないと狙いが定まりにくいので,はじめは短いアイスピック(針が短く太くずんぐりしたやつ)を購入するべきであろう。

そして,まず魚種ごとの脳の所在を知らねばならない。それには,サカナを釣ったら,焼くなり煮るなり蒸すなりして,自ら食べしゃぶって,そのサカナの頭骨の所在をキッチリ認識しておくべきだ。
たとえばアジ・サバ・イサキなどの脳の所在は似ているし,マダイ・クロダイ・チダイ・メジナなど,また,ホウボウ,マゴチ,あるいはカサゴとメバル・スズキなどもそれぞれ似ている。要するに,サカナの体型の系統があって,それに応じて“締め分け”ができれば上等だ。加えて言うと,特にタイ類の頭骨は大型になるほどに堅いので,アイスピックでは勢いがつかない。手カギで締めることとなる。

ついでながら書いておくと,手カギでサカナを即殺するコツは,カギの先端を打ち込む場所を見るのではなく,表面からは見えない脳の所在をイメージして,その一点をのみ注視してそこへ振り下ろすことだ。これは居合い術でワラ束や竹を切るときに,演者は刃を当てる位置を見るのではなく,切り終えた点を意識して刀を振り下ろすのに似ているし,ゴルフや野球で,打者が玉の芯を注視イメージして打ち抜くのと通ずるものがある。やはり力学に基づく技術の原理・道理はすべからく同じなのだ。

アイスピックにせよ手カギにせよ,サカナを水から揚げて,できれば柔らかく厚いスポンジマットなどの上に,頭を右,背を向こう,腹を手前に置いて,サッと左手で目を隠し,おとなしくなった一瞬ののち手を左に滑らせて軽く押さえ,ここぞという箇所にカギを打ち込む,これがタイミングだ。一発で決まらないと,バタバタ暴れて筋肉にストレスを与えてしまうことになる。打ち込んだときに脳を壊せていたら,各ヒレがピンと張り,サカナによってはパクッと口を開けて静かになる。これで完了だ。

ちゃんと脳を壊せたかどうかは,刺身に切ったときの身の透明感,それでわかりにくければ煮魚や味噌汁であなたが頭を食べたときに頭骨をチェックして判明する。はずれていれば,また次はうまくやろうと思う。これでよい。この繰り返しで上手になっていくというものだ。
ここでキーワードをひとつ。「サカナは全て,脊椎動物である」ここからイメージしていくと,初めて接するサカナでも,ちゃんと脳の所在はわかるものですよ。おそれるなかれ。

② 放 血
この作業の目的は,「生臭みの元となる血液を“適度”に抜いてやると同時に,血液による細胞への酸素補給を絶って,筋肉の有酸素分解を抑えること」にある。

サカナが即殺され静かになったら,即殺した置き位置からクルリと背を手前,腹を向こうに持ってきて,左手でエラ蓋を開け,エラの付け根の背骨を出刃包丁で刺すように断ち切り,そのサカナが泳いでいた水を汲んでおき,これにスバヤク静かに浸す。すると,雲が湧き出るようにモクモクと血が出てくるので,それがちょっとおさまったところで引き揚げる。このタイミングはけっこう重要で,しっかり血を抜こうとして漬けすぎると,切り口の身に無用な雑菌が移り,一方,切り口では血が固まって血が逆流してしまう。
また,氷を入れた水で放血する人も見受けるが,これをやると急激な温度の低下で心臓の活性が低くなってしまい,十分な血抜きにならない。あくまでもそのサカナが泳いでいた温度の海水で放血してやるのを最上とする。

ここで,またしてもモノの本に,「尾にも包丁を刺して」「体を折り曲げて」「血を絞り出す」などと書いてあることがあるが,こんなことは絶対にしてはいけない。
即殺して動きを止めても心臓および血管は動いているのでエラ元一カ所だけ切ればいいのに,なぜ尾の血管まで傷つけるのか。こんなことをしたら出場所が二つになってせっかく出ようとする血が逆流してしまう。結果として内部のどこかに血が滞る。
また,せっかく筋肉に疲労物質が生じないよう即殺したのに,その肉を折り曲げてどうするというのだ。こんなことをしたら,筋肉疲労を増やすだけで,せっかくの苦労が水の泡だ。上手に即殺したとしても筋肉に無用な刺激を与えて硬直が早くなってしまうし,刺身の身が白く濁ってしまう。

もっとも,今でも,包丁で目の後ろと尾を刺して体を折り曲げている市場や仲買,魚屋を時どき見受けることがある。それぞれ地域の習慣や流派があるのかもしれないが,私は“勿体ない”,と思うのみ。

うまく放血ができたかどうかは,サカナをさばいたときに判断できる。血栓が生じていないか,おろした身に血がにじんでいないか,そんなところが目安となる。

活け締めという作業は,速やかに,しかし静かに,淡々と,熟練するほどに“美しく”進行するものであって,生命のぶつかり合う威勢のよいショーではない。対象とする生物の成り立ちと,それに対する当方の目的を,よく考え,最善の手法をとるべきと思う。

③ 神経抜き
これは,必ずしも必要がない。が,これをやるとやらないとでは,即殺~放血の効果の持続性が断然違う,というのが事実。この作業の目的は,「脳を壊すことによって,脳から筋肉への伝達は絶たれたが,背骨の中に残っている神経からは,残留している伝達物質が筋肉に伝わるので,これを更に絶ってやる」ということ。神経抜きをするためには,背骨の断面を露出する必要がある。そのためには首を背骨ごとザックリと切ってしまう必要がある。関東の築地ではこのやり方が主流であるが,“姿”を大切にする関西では,これはいけない。そこでどうするか,ということについては後でちょっと述べる。

余談であるが,ウナギの割き方。腹切りに通じると言って関東では背開き,関西では腹開きと定説になっていし,たしかにその通りの習慣であるが,締め方に関しては築地で首切りがよくて関西ではいけない,なんてあたりがオモシロイと思う。

いずれにせよ,とにかく血抜きをするときに首の上半分をザックリと背骨ごと絶ち切り,放血が終わったら持ち上げて背骨の断面を見てほしい。背を上に持って,背骨の真ん中に骨髄が半透明に丸く見え,そこから腹側は,腹骨(アバラ骨)が両方に分かれている。骨髄のすぐ下に白い不透明の細い穴が見えるはずだ。これが神経の経路であって,ここに細い針金(ピアノ線など)を通すと,一瞬筋肉がビクビクッと震えて,神経通しは終了となる。ちなみに血管は,更にその下を背骨に沿って通っている。参考まで。
通す針金の太さが重要で,太すぎれば途中で引っかかってしまうし,細すぎれば十分に神経を壊すことができない。そのあたりを各自熟慮するべきで,何種類かの針金を持っていても悪くないではないか。ステンレス製なら錆びることもない。

ちなみに遠洋はえなわ船で,即殺・放血・神経通しを施したマグロは「シメシメマグロ」と呼ばれ,今日でこそ当たり前になったものの,この技術が導入された当初は新星のごとくもてはやされたものだ。“シメシメ”した証拠として,神経通しした針金ないし樹脂性の細い棒を,通したそのまま残して凍結し,付加価値を上げている船も見受けられる。

④ 温度管理
さて,ここまで終了したら,最後の詰めで気を抜いてはいけない。
ここで言う温度管理の目的は「即殺・放血したサカナを,その効果を最適に持続するため」であって,単にドンドン冷やせばいいというものではない。
一般的にサカナの鮮度というものは氷が維持するものと,半ば常識的に思われがちであるが,たしかに,こと活け締めの世界では,必ずしもそうではない。というところがオモシロイ。次に述べる“野締め”の場合は,氷を絶やすわけにはいかないが,活け締めの場合は,“氷の打ちすぎ”が致命傷となる。これについては過去ログ「スズキの臭み」でも少し述べた。思い出してほしいのは,活け締めが,硬直までの時間を長くして旨み成分を生成させるという点だ。氷は直接大量に用いると,筋肉収縮すなわち硬直を早めてしまう作用がある。せっかく活け締めしても,氷詰めにしてしまえば,これまた水の泡,ということになる。

そこでまず,
● サカナをあまり重ねないこと。
● 表面の乾燥を防ぐためビニールもしくは海水もしくは川水(サカナが棲んでいた水)を浸した濡れ新聞でサカナを包んだら,発泡箱ないしクーラーに横たえる。
● サカナの周辺に,散らばる程度の氷をころがしておく。氷で冷やすというより,ヒンヤリさせてあげる,というイメージ。

以上。
けして水氷に突っ込んだり,大量に氷を投じてはいけない。これをやれば,あっという間に硬直が起こり,活け締めによる本当の旨さは遠くなる,というわけだ。
そしてもうひとつ。
夏なのに氷が少なすぎて温度が上がってしまうと身割れが生じる。
ここのあたりの冷やし加減が,活け締めでは重要。我々ノンプロは,ときどき箱を開けてみて,氷がなくなりそうになっていたら,周囲にちょっと足す,ということでよしとする。

この温度管理は,これまで述べてきた①~③が“作業”であるのに対し,“マメなお世話”という感じです。愛してやって下さいまし。

たかが温度管理であるが,その技術は地域の名物をも産む。静岡県,特に浜松から御前崎にかけての「もちがつお」だ。魚屋や料理屋に「もちがつおアリマス」の幟が立つ。夏の初がつおの季節,当地の沖では曳き縄,すなわち疑似餌を使ったトローリングによるカツオ漁が盛んになる。通常,一本釣りなどで獲るカツオと言えば,すぐさま水氷に突っ込むところであるが,ここではこれを釣れた順に活け締めし,ほとんど氷を打たずに柔らかいマットの上に乗せて港まで持ち帰る。こうした温度管理をされたカツオの味わいは,死後硬直前の,厚めに切られ,ふっくらと箸に身を委ねる刺身をほおばると,つきたての餅を思わせるばかりの優しく口中に絡まる食感と甘みで,なかなかに,旨い。漁場が近く,かつ一次処理後の管理がしっかりされていないと実現しない味なのだ。

【“活け締め”と“野締め”の違い】
ところで“野ジメ”と言うと,自然死したサカナのことと言う方がおられるが,それは違う。活け締めが,生きたサカナに即殺処理を施す行為を指すのに対し,野締めとは,元来サカナが獲れた現場で即殺処理を施す行為を言う。これが原義であるが,今日の水産用語では,たとえばまき網などで大量にアジ・サバ・イワシなどを網で巻いて,いちいち活け締めしている余裕も時間もないので,生きているサカナを水氷に放り込んで殺すと同時に鮮度を維持すること,これを“野締め”,あるいは“ノジ”と呼んでいる。

このやり方だと,氷が安定して効いているうちは高鮮度を保つことができるが,氷が少なくなったり,逆に氷をあとから足して効き過ぎた場合,すなわち,「保存中に温度差が生じた場合」,その度に鮮度は低下してしまう欠点がある。従って,野締めでは,ひとたび生きたサカナを氷水に投入したら,そのままの温度を維持できるよう,ちょうどよい氷の足し方をしてやることが肝要となる。しかしこれがムズカシイから「ああ,ノジモンね」と言われてしまうのである。

そう言われたところで多獲性のアジ・サバ・イワシ・サンマなどではいたし方ないことでサカナのせいではない。漁法の問題なので,それでよしとすべきである。が,一尾一尾個別に扱うことのできるタイやヒラメなどの白身高級魚などは,これではいけないということだ。ノジということで格下の評価が下っても,努力不足・配慮不足ということであって,それまたいたしかたないことだ。

たとえば大分県の関アジ・サバがなぜあのようにあがめ奉られるかといえば,まず第一に,本来は野締めになってしまう運命の青ザカナを“活け締め”しているからだ。そしてそれ以前に,サカナに苦しみを与える時間を短くできる釣り漁業によること,サカナを針からはずすときや市場で扱うときも一切手を触れないこと,更に臭みの原因となる撒き餌を使用していない擬餌針釣りであることだ。

【“アガル”とは?】
活け締めにせよ,野締めにせよ,どちらも“締めてある”わけだ。しかし,その効果が失われる状況が時として生じる。
そこで“アガリ”という表現が登場する。これはアガリモンだな,とか,これはもうアガッてしまったな,などという使い方をする。

具体的にどういう状態かと言えば,市場にもよるが,
① 活け締めあるいは野締めを施したサカナの死後硬直が終了して柔らかくなってしまったもの,
② 漁獲された時点,あるいは漁獲後に常温で自然死したもの。
これらはいずれにしても,三枚におろしたときに身割れが生じたり,胃に残った餌が分解して臭みが生じたり,氷水にふやけて姿が悪かったりと,たいていいろいろな欠点が生じている。
これらをどのように扱うか。正直に伝えて安値をつけるのか,わからない客にはうまいこと言って押しつけてしまうのか,そのへんでその市場の“格”が出る。まあ,築地あたりでは“勝ち鬨橋を渡ったら,どんなウソでもついてよい”などと言われてはいるけれど。つまり,勉強不足でだまされる方が悪いのだ,という,これも一理あること。
一方,我々買い手ないし料理人としては,このようなサカナを目利きして妥当な値段で買い,欠点を克服してどのようにおいしく食べることができるかを考えることも,大切な勉強には違いない。一流店ではダメですけどね。

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【 究極の活け締め「天下の明石」 】
私が知る限り,魚のとり扱いに関する日本一の技術は,かの明石ダイや明石ダコで有名な「明石」にある。もっと正確に言えば,「明石浦漁協」にあるのでアル。既に述べた“活け締め”は,既に述べたような手法であるが,明石の場合は更に奥深く際限がない。魚扱いの奥義の殿堂であると言ってよいと思う。
その工程は次の三つに分かれる

① 活け越し
これは,漁師が獲ってきたサカナをそのまま活け締めするのではなく,海水を循環した水槽にフタをして真っ暗にし,その中で一昼夜,サカナを静養させる。こうすることによって,漁獲によって生じた筋肉中の疲労物質は分解されて正常な状態に戻り,胃や腸に残っていた餌の消化物は全て排泄されて,これが分解して臭みを生じることはなくなる。
一般的に底引き網などで漁獲されたサカナは活魚には適さないと言われているが,明石の場合は,「サカナは原則活けモノ」である。船上での扱いからして,違う,のである。そこに,この活け越しの技術が光る。

② 活け締め
既に述べたとおりであるが,明石では,長い歴史の中で培われ,かつ今日でも進化しつつある活け締め技術が,先輩から後輩に脈々と受け継がれており,しかもその技術の正確さと合理性には目を瞠るものがある。
たとえば明石では,即殺法ひとつにしても,魚種別にやり方が違う。魚種ごとに骨格も違えばサイズによっても違う。これはよく考えれば当然のことなのだが,それをきめこまかく使い分けているところがスゴイ。活け締めの項で説明した「神経抜き」にしても,既に述べたように,関西は首根っこを背骨ごとバッサリ切って神経抜きをするが,姿を大切にする関西ではこれはいけない。ではどうするかというと,たとえばタイ。即殺・放血ののち,シッポの脇からウロコの隙間を突いて頭の方へスッと針金を入れて,ウロコ一枚落とさずに神経を抜いてしまうのである。想像できますか?

③ 以上2つのタイミング
たとえば京都の吉兆,あるいは辻留などの料理屋からタイの注文があったとき,明石浦漁協では,明石から活け締めして送って,到着して料理されたときに最高の味が出るようなタイミングで,時間を逆算してサカナを締める。これはその時期のサカナの性質と味を知り尽くし,なおかつその時期の気温や気候をとらえていないとできない技だ。こうして最適の食べ頃となったタイの刺身は,それは“たまげる味”なのだ。身が活かっているのにしっとりし,透明感があり,うっすらと飴色がかった艶を呈する。肉は弾力があるものの,噛めばジワリと甘みを伝える。

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このように明石のヒミツを書いてしまってよいのか,ということについては,私は全く安心している。当の明石浦漁協にしても同じことを言うはずだ。なぜなら,仮にこれを読んだ人が明石流活け締めの真似をして商売しようとしても,到底ムリ,であることがわかりきっているからだ。明石のすごさは,単に活け締め技術だけではないからだ。

神戸で仕事をしていた当時,私は明石の魅力,これは四季折々変わる豊富なサカナの顔と味,サカナを徹底的に大切に扱う漁師の姿勢,これらを扱う明石浦漁協職員の努力と誇り,そのようにして扱ったサカナを必ず売ってみせる漁協の力量,時代に伴い消費者に薄れるサカナに対する愛着を取り戻す試み等々,これらに取り憑かれ,バイクで日参していた。いずれをとってみても,全国他漁協の追随を許さない。それほどの努力の歴史と,抱える前浜の豊かさがある。

とはいえ,最近は明石も楽観してもいられない。昨今の地球温暖化をはじめとする環境の大きな変化は,瀬戸内海にも着実に現れている。しかしその中にあっても,過去も,今も,これからも,必ず何らかの活路を見いだしてきたし,見いだしていくのが明石浦漁協であると信ずる。私にとって,明石は日本魚食文化のかなめであり、まさに道場であった。

旨いサカナの魅力に取り憑かれた皆様。機会あらば,明石に行かれよ。それぞれの“視点のレベル”に見合ったすごさを,明石は見せてくれる。

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サカナを釣るのに執心するのもいいが,どんなサカナでも旨くすることを考えてほしい。
遊びやゲームで釣る世界はいかにも子供じみていているし,私にはよくわからない。が、あるいは猫が食わないネズミを殺すことと同じなのかもしれない。

しかし、やはり釣りは、“生きた食べ物”を獲ることでありたいと私は思う。
でなければ,何のために他のいのちを苦しませ,あるいは殺したりするのか,理由がみつからない。  

Posted by ウエカツ水産 at 00:23Comments(3)釣・料理・水産