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2007年07月13日

梅雨の真水を、飲むサカナ

本年初夏の雨不足を反省したのか,このところ天もドシドシ雨を注ぎ,九州などではいささかやりすぎ。過ぎタルは及ばざるどころか,被害が及び過ぎで困っている。

ここ境港も雨続きで釣行のタイミングを逃し気味。こんな状況の中,やはりいかにコンスタントにオカズを確保するか,が重要課題。我が家のサカナ在庫はチヌ半身とメバル3尾であったが,昨夜は松江の釣天狗兄弟の訪問があり,全て食ってしまった。もうこれは出漁せざるをえない。サカナ在庫がないこと自体,我が家では由々しきことなのだ。

ところで余談になりますが,前回「末期のサカナ」と書いた表題を「マッキノサカナ?」と読んだ人が,びっくりするくらい結構いた。「マツゴ」のサカナですね,念のため。まさか今回も「梅雨」を「バイウ」などと読む人はサスガにいないとは思うが,念のため。けして間違いとは言えないが,やはり言葉も状況によって適正表音がある,ということで・・・。

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さて本題。
“○○は梅雨の水を飲んで旨くなる”という言い習わしは,全国各地,特に関東以西の沿岸で聞くことができる。○○,は当然サカナであり,カレイであったり,タコであったり,キスであったり,アナゴであったり,シャコであったり,イサキやメバルなどなど,探せばもっとあると思う。いったいどういう意味なのであろうか。単によく釣れる時期を言っているとも思えない。たしかに,ここに掲げたサカナ達は,梅雨の雨が降るごとに,なぜか旨味を増す感じがするし,脂を乗せてくる。成長もいい。

 数ヶ月も前になると思うが,国営放送が「富山湾」の豊饒さの謎を科学的に追跡したドキュメンタリーを発表し,何らかの賞に輝いたと記憶している。その中で,急峻な能登半島の豊かな森林が蓄える地下水が,川や井戸のみならず沿岸の海底からユラユラと湧き出ており,周囲にカレイなどの底棲魚類が蝟集して餌をとっている光景が報じられた。いわく,この真水が魚族を涵養するということであった。

「城下(しろした)カレイ」で有名な,大分県瀬戸内海側のマコガレイも同じ理屈で説明されており,沿海に臨む日出(ひじ)町は暘谷(ようこく)城跡の前浜の海底に真水が湧き出ているがために,カレイの味が良いのだと言われている。その理由は明らかにされていないが,経験的になぜかそう言われている。

毎日のように海を見,釣りをしていると,晴天から転じて降雨し,雨が上がってその後どのように海が変化していき,サカナの所在や行動状況がどう変わるかといったこと,すなわち雨の海に対する影響が,なんとなくわかってくる。釣果にも影響が出るのでお気づきの方も多いと思う。

川釣り師であれば,水の出所に近いこともあって,もっとハッキリと認識している。釣りをしている現在地が晴天であっても,水温や濁りの変化で上流部の状態を推測し,また,熟練した釣り師は変化する状況に合わせて釣り場所と釣り方を変えてゆく。海の釣りではどうであろうか。

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最近もっぱら冷蔵庫がわりに通っているメバル・スズキ・キジハタ等の安定漁場の例で言うと,ドッと雨が降ると,少し遅れて笹濁りが始まるが,透明度があまり落ちない状態がしばらく続く。いわゆる“笹濁り”だ。この過程で一時的にサカナの活性が上がるタイミングがある。それを越えると,それまで釣れていた魚は移動し,あるいは沈滞し,索餌活性は低下する。そして,雨が止んだ翌日ないし数日後に,グッと濁って透明度が著しく低下し,サカナの活性は最低となり。その後更に晴天が続くと暫時透明度が戻り,サカナも通常の状態に戻る。

具体的な魚種で言えば,スズキなどは雨が降って濁り始めた頃,その後に来る強い濁りまでの間に特に激しく餌をとる。メバルやキジハタ,アジなどは,雨が続くに従って活性が低下し,グッと濁ったあとに透明度が復活する初期の頃に荒食いする。キスやカレイでは,濁りのピークを越えて透明度がかなり回復したあたりで盛んに口を使い始める。

よく観察してみると,濁り好きと言われるスズキにせよ,濁りのピークに濁りの中で釣れてくることは稀である。濁りと濁りの合間に釣れたり,濁りが生じたり消えたりする途中のどこかに,よく食ってくるタイミングがある。サカナの索餌行動と濁りに,何らかの因果関係があるには違いない。

まず視覚的に考えてみると,フィッシュイーターが追いかけ回すシラスなどの小型魚にとって,濁りは我が身を隠してくれるベールのように機能する反面,捕食者から見れば,餌に近づきやすくなる隠れ蓑にもなるわけだ。ただ,これも濁り過ぎれば餌を見つけにくいということになり,逆効果となる。
従って捕食者であるスズキやアジなどの活は,雨が降り始めてから濁りがピークになるまでの一時期,結構早い段階で高まるのは,そういうわけではないかと推測している。スズキは視覚的にちょうどよい濁りを利用して餌を効率よく取ろうとしている。

では,小魚を追いかけ回すわけではないカレイやキスやアナゴはどうであろうか。
これは生態系の中の栄養の流れを考えてみれば説明がつく。富山湾を思い出していただきたい。山から流れ出る川水や地下水には,様々なミネラル分が溶け込んでおり,海洋生産の基礎となる植物プランクトンが育つために不可欠な窒素,リン,カリウムといった成分も多く含まれる。降雨があれば,陸上から更に多くの栄養物質が洗い流され,河川を経て海へ流入する。

雨が降り始めても,土砂が混じらない限り,海水はあくまでも薄濁り程度であるが,濁りがピークになるのは,雨が止み,次の日照が続いたときだ。
すなわちこの濁りは,植物プランクトンが雨水に流された栄養物質を吸収し,太陽エネルギーを得て増殖した結果なのである。そして,増殖した植物プランクトンを動物プランクトンが捕食していくと,次第に水は澄んでくる。また,植物プランクトンが増殖のピークを越えて自然に死滅して沈殿すれば,彼らが吸収した栄養物質は,有機物として海底に帰る。

結果として動物プランクトンに形を変えた海の濁りは,イワシの稚魚であるシラスをはじめ,様々な小生物に補食されていき,更にこれらはより大きな生物に補食されていく。たとえばアジやメバルやスズキなど。
一方,植物プランクトンが死滅して海底に沈殿してできた栄養物質は,付着性の生物や貝類やゴカイの仲間などに消費され,これらもまた,より大きな生物に補食されていく。たとえばカレイやキスやクロダイなど。

冒頭に書いた,“サカナは梅雨の水を飲んで旨くなる”,の一件は,つまるところ,こういうわけではないかと思う。当然ながら、けして雨水を飲んで旨くなるわけではない。この表現は,あくまでも経験則であり比喩である。
梅雨のまとまった雨水によって栄養が海に供給され,食物連鎖によってそれが循環的に消費され,より高次な捕食者であるサカナの餌となる。結果,サカナが肥え,味が良くなってゆく。
逆に言えば,断続的な雨と比較的強い日照の両方が交互に得られる梅雨時期こそ,このようなことが起こりうるということだ。

ただし,これも,雨が運んだ陸の栄養を循環させる「健全な食物連鎖」があってこそだ。
干潟が消え,渚に道路が通り,磯がコンクリート護岸となりつつある現代の海において,連鎖を担う生物の種類も数も減っている。梅雨の水を飲んで旨くなるサカナのその旨さは,この説に照らせば明らかに質が落ちているはずだ。昔日の自然が存在した豊かな海の,梅雨のサカナの旨さは,いかばかりであったろうか。

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さて,ここ数日雨が続いた。今日は少し晴れ間も見えたが,濁り初めのチャンスを狙うには雨が続きすぎた。次の照りが来れば,グッと濁る。そのアトのひとチャンスで勝負だ。

既に述べたように,梅雨の雨による濁りはサカナにとって恵みの濁りだ。ただ,釣りによってサカナを追いかける我々としては,今見ている海の濁りが,どの段階の濁りなのかを前後の状況から見極め,食い気のあるサカナの所在を探すことが肝要となる。
濁りにチャンスあり。しかし,魚種によって濁りに対する行動や活性は異なる。狙うサカナが今の濁りに対してどこでどのようにしているのか,これを考え推測し,つかむことが安定したオカズ供給につながる。

この時期,メバルも相変わらず旨いのだが,何せこのところスズキがメキメキと味を上げている。特に40~50㎝くらいのがよい。栄養豊富な真水が育てたプランクトンを餌とする小イワシに脂が乗ってくるからであって,これを食べるスズキも当然良くなる。体高も幅も広くなり,風味のある脂が乗り,なんといっても塩焼きが最高に旨い。旨いのだから,この時期は,けして“またスズキが釣れてしまった”などとは言わない。

もちろん,当家の過去ブログ「スズキの臭味」にて述べたとおり,下処理が肝心だ。現場で活け締めして,台所でウロコと内臓を取ったら体表を塩ずりし,酒を振りかけてから水で洗い,切れ目をいくつか入れたら塩をまんべんなく薄くあてて暫く置き,焼く前にあらためて振り塩をする。表をちょっと焼いたあと,裏で7割を焼き,再び表にかえして3割を焼き上げる。表面はパリッと,中はジューシーに仕上げる。身肉もさることながら,ヒレの根元,シッポのキワなどにムッチリとした旨味を湛え,春の痩せスズキとは比較にならない別物だ。

まさに“梅雨の雨を飲むごとに”,スズキも旨くなってゆく。いいですな。



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Posted by ウエカツ水産 at 00:37│Comments(2)魚・釣・環境
この記事へのコメント
いつも、ありがとうございます。
としかし、表現できないことを許してください。
ウエカツ師匠のブログ更新、興味津々で読んでおります。
すべて、コピーしてワードへまとめております。
釣り、料理、環境、を中心にまとめておられますがが、全て人の生き方、道筋の付けかたに、帰着するように思います。
 サバの料理の話は痛く共通する事柄が私にもあり、大学生の時に釣りの友達にしていただいたおばあさんがいて、逢うたびに私に弁当を作って食べさせてくれました。その時の味が今だに忘れられず、食べさせていただくことの感謝の意味と愛情をしりました。まさに、犬は3日飼えば恩義をわすれないといいますが・・物をたべさせていただく恩義は大変あついことで貴重であることと理解しております。
 さてさて、釣りとはあまり関係はないのでが、私の人生訓、弱った時や、誰かの旅立ちに必ず送る詩がありますので紹介します。


 SELF-PITY

I never saw a wild thing
Sorry for itself.
A small bird will drop frozen dead from a bough
Without ever having felt sorry for itself.

D.H  Lawrence


自己憐憫
自分自身を憐れむ野生の生き物を見たことはない

寒さで凍え、枝から落ちる小鳥も

決して、みじめさは知らない。

                D.H ロレンス
Posted by アニー at 2007年07月14日 06:03
アニーさま

ロレンス、静かな目線でスルドク描くよな。

自然界の生物が仮に、人間のようにストレスや痛みを増幅して感受しているとすれば、子孫を残すどころか苦しくて耐えられるわけがあるまい。

自然界の生物は、全ての痛みを耐えるのみ。動ける者はそこから逃げることはできたとしても、対局で見ればすべからく雑草に同じ。

多くの人間が苦しんでいるが、痛みは痛み、苦しさは苦しさで、あがかずじっと耐えているほうが結果としてはよいように思う。逃れようとすればよけいに苦しい。去らぬ嵐はないものな。

降る雪がかぶるままにじっとしている野猿、大時化の中で幾日も食べずに跳び続けるカモメ、スズキにくわえられて目を瞠ったまま飲まれていくイワシ、これら、ただただ今ある生命が終わるその瞬間までひたすら生き尽くすのみ。

自然から学ぶことは多いな。僕はそういう視点で釣りをしている。

そうするとね、よく釣れる、というわけよ、ははは。
Posted by ウエカツ水産 at 2007年07月15日 22:14
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