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2007年05月08日

続・塩煮の世界

 塩煮が簡易かつ滋味なる料理法である点,前回述べた次第。
 そしてシンプルなものほど使い手に応じて様々に応用が利く。その点,料理も釣り道具もすべからく同じと思う。

過日,メバルの塩煮道にはまり込んでおられるイカロック氏の前に,次なる課題出現。それは“塩煮にもいろいろバリエーションがある”ということ。

 世界の主たる料理を和・洋・中とおおまかに分類したとき,用いる素材の種類でみると,意外と似たようなものを使っていることに気づく。では何が違うのかと言えば,素材から出る旨み成分が共通であるとすれば,あとは素材の組み合わせ,中でも素材の味を補うために用いる主たる調味料,それから“香味”と“油脂の風味”の違いが最も大きいと思われる。これがひとつのカギとなる。

 塩煮はその名のとおり塩水,それと少量の酒によって魚の旨みを引き出したもので,それ以外の風味は長ネギとサラダ油であり,これら調味料は魚の味を損なわず,かつ過不足のない役割を果たしてくれる。これを「和」,とするならば,洋や中との関係はどうなるのか,塩煮が化けるとはどういうことなのか、というのが今回のお題。理屈はこれくらいにして実践です。

●「洋」の塩煮
(1) 魚の下処理は塩煮に準ず。万事これを怠ってはいけない。
(2) フライパンにオリーブ油を若干多めに入れ,火を入れる前に厚めにスライスしたニンニク数片および種を抜いた唐辛子1本を投じ,弱火で加熱。辛味は唐辛子を熱する時間で調節する(油の味見も大切)。ニンニクは両面きつね色になったら小皿に取り出しておく。
(3) 火を中火に上げメバルの表・裏の順に焼き目をつける点も塩煮に準ず。表を焼き終わった時点 で,黄パプリカ,ピーマン等をメバルの周囲で炒め始める。
(4) メバルの両面を焼き終えたら,強火にして酒を投入し,蓋。アルコールが飛んだら蓋をとり塩煮と同濃度の塩水を注ぎ,粗挽きコショウを少々。ここでとり置いたニンニクスライスを戻す。
(5) 再度沸いたところで,トマト適量個数を“粗くすり下ろして”加える。竹製の「鬼おろし」があれば用いて最良。沸いたらアクをとる。
(6) 煮加減も塩煮に準ず。最後にセロリの葉,もしくは三つ葉を刻んだものを振りかけ,なじんだら火を止める。スープを飲みつつ食べるのがいいので,スプーンを添えることをお忘れなく。


 さて,以上を見れば,あれあれ!いわゆるイタリーの“アクア・パッツァ”ではないか,と思い当たる方がおられて当然と思う。そこはそれ,本品はあくまでも“和”たる塩煮から派生したものであるから,味のスジは同じでも風味が少々異なる。パンだけではなく白いご飯にも合う。これは,食べていただければわかること。

 アクア~も家庭料理なので,作り方もいろいろであるが,ここでご紹介したスタイルの特徴は,旨みはそのままに風味が爽やかであること。本場モノも大変おいしいが,いささか重たい。逆に,アチラ慣れした方には物足りないということもあろうが、当家の要点は以下の如し。

①ニンニクは途中で取り出し後で再度戻すことにより,香味と香ばしさのみ用いることができる。
②使用する酒はワインではなく日本酒を用いることにより,酒の酸味を控える。
③甘味の強いプチトマトやドライトマト,或いはトマトピューレなどは用いず,大型トマトを生ですり下ろ して加える。
③香辛料として通常用いるバジルやオレガノ等は入れず,香味はニンニク・黒コショウとセロリないし  三つ葉程度とする。




では次に,中国大陸に赴きますか。

●「中」の塩煮
(1) 魚の下処理は塩煮に準ず。ゆめゆめこれを怠ってはいけない。
(2) フライパンにゴマ油を入れ,皮付きショウガのスライス数片を投じ,弱火に点火。香りが立ったところで長ネギの青い方から半分をみじんに切ったものを投入し,軽く炒める。
(3) 長ネギの香りが立ったところで,火を中火にしてメバルを入れ,表・裏と焼き目をつける。そして酒入れて蓋。アルコールが飛んだら塩水を加え,煮加減を料る。この一連の工程,全て塩煮に準ずる。
(4) 煮上がり直前にゴマ油ごく少量をメバルに直接たらし,火を止める。
(5) 残った長ネギの白い方を5㎝ほどに切りそろえ,芯を抜いてタテに極細に刻んで,水にさらして水気を切る。いわゆる白髪ネギ。そして,ショウガの皮を剥き,針に刻んで水にさらして水気を切る。いわゆる針ショウガ。これを,器に移した魚の上に,ネギたっぷり,ショウガ適量,の順に盛りつける。これは,ネギとショウガを熱いスープの中に崩し入れ,ほぐした身と共に浸しながら食うのがスバラシイ。



 さて,以上を読めば,アレね!いわゆるチャイナの“清蒸(チンジャオ)”??,半疑問系でおっしゃられても,この場合は,いいえ全く違いマスとお答えするしかない。ご覧のとおり蒸していない。
 第一,恐れ多くも中国大陸最強の魚料理であるチンジャオは,本格の料理店であれば,これ専門の達人が一日中それのみの任に徹し,魚のサイズ・質,調味,蒸し加減に至るまで,全神経を針のようにして蒸し上げるという、たいした料理なのである。そこでまたまた当家としては,「本品はあくまでも塩煮から派生したものでありますから云々,」などと述べるのみ。

 しかし,食べてもらえばわかるが,なかなかいい線をイッテるのである。かの蒸し魚料理のように神経をとがらかすことなく,極めて短時間で,別の、近い味を味わえる,というのは言い過ぎか。風味の要件は満たしている。試しに,かの料理に専ら用いるデカ口の魚=ハタ類,マハタ(ホンカナ)やアオハタ(キカナ),キジハタ(アカミズ)なんかで作ってみると,これがイケルのである。

→ ただし,決定的なことが・・・
 ● フライパンに入れて蓋できないサイズの魚は無理。かといってちょん切るのは惜しい。
 ● 魚が大きいと,直火では火の通りにムラが生ずる。


・・・ですから,小さいキジハタなど釣れた時には,お手軽に,ぜひ。


 総じて,洋や中から和には化けにくい。が,和から洋や中テイストへの移行は,その構成要素さえ押さえれば比較的容易である。これは和の世界がに素材の持ち味を優先していることの証であろうと思う。従って,たとえば「韓」はどうか(ゴマ油,大葉・ニンニク・辛・味噌など),「タイ」はどうか(サラダ油,甘・辛・酸+香味),というように,世界の料理と芋ヅル式に広がっていける。どこを旅してもいろいろできる。構成要素とそれらの加減。順序とタイミング。これだけでもいろいろできる。最初は似て非なるものであっても,研鑽すればしただけ独自のホンモノとなる。

 もっとも,最近の創作料理なんてのにマトモなものに出会ったためしがない。趣味の延長で、古今東西の味の系譜を逸脱した独善的ママゴトのように見える。プロというからには基礎と基本は一度はちゃんとカラダに憶えさせないといけない。草書の前には楷書の練習が必要ではないか。なんてのは余談。

まあ,だまされたと思って、塩煮と真剣に遊んでみてはいかがでしょうか。
おもしろくて旨いですよ!



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Posted by ウエカツ水産 at 18:03│Comments(7)魚・料理
この記事へのコメント
こんばんわ。

いつも訪問ありがとうございます。

塩煮の道
あとは・・魚を釣るだけですね・・。(笑)

派生でもないですけれど・・
『岩魚の骨酒』のように
魚を塩焼きにして、酒(日本酒)で炊くのも面白いかもしれませんよ。
もちろん臭みを取る為に、腹に香草を詰めて焼いたりしてもいいかな・・と。
Posted by フラ at 2007年05月08日 20:56
こんばんはッス!

洋と中の塩煮レシピありがとうございます。
これで、挑戦できます!

ただ、肝心のメバルがなかなか釣れないデス!
赤潮と小イカに邪魔されております。。。

あの時食べさせていただいた味を忘れる前に
食べておきたいです!
Posted by イカロック at 2007年05月08日 21:27
フラさま

そういえば、イカロックさんの家を経由してお邪魔しましたね!

さて、ご提案の、塩焼きを酒で煮る、あるいは香草を詰めて、ということについて少々。

 酒は、それだけで煮た場合、逆に素材から味を奪ってしまう性質を持っており、特に、素材に下味がついている場合は顕著です。
 浸透圧の差というよりも、これは陰陽でとらえたほうがわかりやすく、酒は陰性が強いため、単品で用いれば、相対的に陽性の素材の旨みを酒自身の中に引き込むことになります。
 また、酒特有の酸味は、加熱し酒気を飛ばしますと、想像以上に強くなります。

 従って、魚の塩焼きを酒で煮た場合、これは白身、赤身の違いはあるのですが、旨み成分は全て酒の方に移ってしまうわけです。そして酸っぱくなる。「酒蒸し」などと言っても、酒をなみなみと入れるわけではなく適量を用い、蒸発する酒気で臭みを取り、残る成分で控えめに旨みを補助している、いわば、酒の性質のいいとこどりをした調理法ですよね。

 これを逆手に利用したのがイワナやメバルでやる“骨酒”であり、和食の世界で言う“煎り酒”です。前者は魚のダシを酒の中に引き出してやるので、酒は旨くなっても魚自体はダシガラとなります。後者は梅干しを静かに酒で煮て酒気を飛ばし、梅の旨み・風味・塩味を酒に移したものです。これは日本に古くから伝わる刺身のつけダレとなっています。

そして、香草について。
貴兄は試してみられましたか?

 日本酒100%とは合わないのです。
ご紹介した洋の塩煮のように、少量・適量であればほとんどのジャンルに通用する日本酒ですが、どうも100%はいけません。
といいますか、やはり香草の香りと雑味が、全て酒の中に出てしまうのです。
 それこそ逆に、魚の旨みと香草のエキスが滲出した酒を、他の料理の調味料として用いるなら別なのですが。

 臭みをとる、という目的なのであれば、香草は必要ありません。古い肉や魚の臭みをマスクしてなんとか食おうという場合は別として、基本的に塩と酒の使い方、使う形態と量、そして順序とタイミング。これであらかたの臭みは十分除去できるのです。

とり急ぎ。
Posted by ウエカツ at 2007年05月09日 09:40
イカロックさま

お世話になっております。
日々の精進、ご苦労様でございます。

当方、その後も安定した漁獲が続いており、おかげさまで食生活は豊かです。
昨日は南西の風が強烈でしたが、けして風裏、といったことに限らず、居るところには居るもので、毎日ちゃんとオカズは確保できていますよ~。例によって25㎝内外のメバル3つのほか、40㎝ヒラセイゴ1つ、20㎝アジ10ばかり。ということで、今日は釣りに行かなくてもよろしい日。

夜間の赤潮は表層のせいぜい1~2mだけ。およそプランクトンは日周鉛直運動をしているので、夜にはほとんど表層に集中します。夜光虫の赤潮ならよほどの事がない限り害もなく、場合によっては好条件とも言える。ラインが光らないような道具操作の工夫は必要ですが。

小イカ。
あのサイズのスルメイカを、食べ頃サイズのメバルは食わんでしょう。胃内容物としても見たことない。食うのはせいぜいスズキあたりでしょう。 だから、最適サイズのメバルを短時間で獲るのであれば小イカなんかが邪魔するところで釣りはせんことです。オカズ獲り、研究、趣味、といろいろ釣りのスタイルがありますが、何をメインに置くのかということなわけで。獲れるところで獲れる時に獲れるやり方で獲る、これオカズ獲り型釣り師の要諦ナリ。
Posted by ウエカツ at 2007年05月09日 10:25
なるほど・・
三つ葉やセリくらいならいいかなと思いましたが、うーん・・深いですね。
Posted by フラ at 2007年05月09日 18:08
レシピの追加および、成り立ち、大変勉強になる記事を拝見させていただきました。
塩煮道につっこみ、思案を重ねている兄弟愛です。
味にあきない、あっさりしている、魚の味を楽しめる、最高です。
しかし、奥が深い!!毎回考えさせられる料理と言えます。
いただいた、アクアピッサ&中華・・最高でした。
時期も変わり、赤、金から・・・青になるようですがぜひ、料理に食したいと
考えております。
今日の釣果ですが、アニーの得意分野で攻めました!!
アオリ700gの食べごろサイズGETなり。
師匠いわく、考えて釣れ、パターンを模索しろ!!
のひとことに尽きる釣行でした。
日々、釣りの腕と料理の腕を少しづつでもあげていけたらと努力をしております。
Posted by アニー at 2007年05月10日 02:38
アニーさま

そんな、釣れ とか、しろ
なんて、言ってませんでしょ。

でも補足させていただくならば、

結局、五感を十分に使えているか、ということだと思います。

 たとえば、先頃まで安定していたメバル漁場が徐々に崩れつつありますが、それは釣り人から見れば崩れているように感じるだけで、常に刻々と変化しているのが当たり前なわけだ。
 潮や餌の動きを見たり、風の向きや温度を感じたり、釣れた魚の温度はどうかとか言うけれど、やはり原因のない結果はないわけですから、それらを丁寧に見て感じて触ったり、いろいろしながら考えてやる、ということだと思っています。

 それと、パターンということについて、これは時として安易過ぎる言葉だと思っています。
 餌や道具をいろいろ変えたりするミクロな視点と、漁場をとりまく全体を見渡すとか、あるいは山陰沖全体の気象・海況の中での今の漁場、といったマクロな視点。釣りに限らずこれら両方とも、そしてその中間ゾーンも大切ですけれど、よくあることですが、魚を追っかけることに集中しすぎて、手近な特定の事象に心が向いてしまうとき、これをパターンと言っている場合が多いように見受けます。釣れたにせよ釣れなかったにせよ、とりあえず手短かな情報で自分を納得させようとする心理は、誰でもあること。楽に安心できるから。
 でもこれに慣れてしまうと、次第に、魚や漁場に自分を合わせる姿勢を忘れ、自分のやりかたに合う魚や漁場ばかり応用になりがち。それでいて釣れなかったら“今日はいませんでした”なんて言ったりして。
これはもったいないのではないか。

 自然相手の釣りの場合、ですから大切なのは“パターン”をつかむというより、“環境”をどれだけ多くとらえ、それが変化したときにどうやって合わせていけるか、ということだと思うのです。ここが自然相手で肝要な部分。

むろん、「再現性」ということとは別の意味ですが。
こんなことをサイエンティストである貴兄に言うのは失礼と知りつつ、少々ね。
Posted by ウエカツ at 2007年05月11日 10:51
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