2007年07月01日
「カルパッチョ」について、ひとこと
たいへんご無沙汰しております。
つまらないことを言うようですが,,,
ここ数年来,都市部を中心に,店内にジャズが流れているようなナンチャッテハイカラ居酒屋,或いはあくまで自称創作料理屋などのいたるところに「カルパッチョ」なるメニューが導入され,最近は釣り人までもパッチョパッチョとかまびすしい。マグロや鮭,タイやヒラメなど,多様化をみせている。このことが,悪いけれどちょいと神経に障る。最近では,その名を聞くだけでもナンダカ腹が立つようになってしまっていけない。条件反射か。
というのも,これだけ普及している「カルパッチョ」であるが,店だろうが誰かが作ってくださるものだろうが,私はマトモなソレに一度も出会ったことがないからだ。具体的かつ断定的に言わせてもらえれば,世間で氾濫しているソレは,単なる“薄切り刺身と野菜のサラダ”である。ソレのソレたる最重要ポイントがボッカリ抜けてしまっているのである。ここを申し上げたい。
では,カルパッチョのソレたるゆえんは何か。
①塩,②黒コショウ,③柑橘汁,④オリーブ油,以上。これが構成要素。
こう書くと,ちゃんと全部入ってるじゃないですかっ,ウチのも! とおっしゃる方もおられようが,順序が違う。合わせればいいというものではない。同じ材料を用いても,順序と手法が異なれば,味としては違うものとなるは料理の理。やりかたが変われば“似て非なるもの”というのだ。
カルパッチョは言うまでもなく,元来,新鮮な畜肉を生で食べることを目的とし,これがイタリア南部を主産地とするオリーブ油および柑橘類と出会い,更に地中海の魚にも波及して定着したと推せられる。
しかし,現代でこそ,新鮮な肉や魚の入手が常識化しているが,その昔,どうであったろうか。まず,鮮度維持に必要な,冷やすための氷がふんだんにあるワケがない。かといって肉にしても魚にしても,屠殺ないし漁獲してから長期間常温で放置するわけにもいかなかったであろう。雑菌が繁殖する条件,すなわち①適度な温度,②水分,③豊富な栄養,が揃えば肉は腐敗へと進む。まして,カルパッチョの必須構成要素である柑橘類の地理的分布は温帯~亜熱帯域であるから,雑菌にとってはより快適なのである。そこで,2つの選択肢が生ずる。新鮮な肉や魚を入手したら,①速やかに食べてしまう,②保存するための処理を施す。
ところで,冷蔵庫が当たり前となった現代の我々は,たとえば肉の表面が菌に冒されて腐敗臭がしたら,可食部全てが腐敗していると錯覚してはいないだろうか。
実は,新鮮な肉の大きな固まりがあったとして,表面が痛んできたとしても,その内部は大丈夫,なのである。危ない部分と安全な部分をごっちゃにしてはもったいない。また魚であれば,大きな魚,たとえばマグロやクジラなどでも同じようなことが言える。丸ごとの小さな魚でも,新鮮なうちにウロコや内臓,ヒレなどの雑菌が付着しやすい部位を除いておけば,大型の生物ほど比較的常温でも長持ちするのである。初期の段階であれば,表面が臭くなったら洗えばよろしい。
そもそも熱帯地方の市場で,常温で魚がゴロゴロ並べられていてもちゃんと食べられるのはなぜか?これも同じ原理で,表面には菌がついていても,「生体」の内部は無菌状態だからだ。死んだ魚や牛でも,初めのうちは内部たる筋肉細胞は生きている。時間がたてば細胞中の分解酵素が作用して細胞が崩壊し,旨みが増し,それを越えれば外側から次第に菌が侵入し繁殖する場所となる。
ちなみに畜肉やマグロを「熟成する」といって固まりのまま保存しておくのは,この自己分解(=旨み成分の増加)と腐敗のきわどいところを見極める技術である。
さて。
とはいえ表面が雑菌に冒されることには変わりはない。そこで保存する手段として,当時氷が少ない時代に使用されるのがまず「塩」であろう。塩は最も入手しやすく生命と関わりの深い最初の調味料であり,味付けのみならず,その強い浸透圧によって肉の細胞から水分を奪うことができる。更に,付着した雑菌の細胞からも水分を奪ってしまう。もちろん海水中には塩分を好む菌もいるのであるが,陸上であれば,塩は,まず,先述した,菌の発生条件の最重要条件である「水分」を奪う力を持っているのである。
肉が腐敗しやすい温・熱帯の地方にあった,冷蔵手段もなく,それでもなお“生で食いたい”という欲求,おそらくそれがカルパッチョを生んだ原動力である。そこでは塩が不可欠のはずだ。しかも,味付け程度ではなく,雑菌が繁殖できない強い塩加減が求められたはずだ。
そして,もうひとつ,安全な生食を実現したのが,レモンやライムをはじめとする柑橘類の植生である。強度な酸味が雑菌の繁殖を阻害して保存性と安全性を高めることは,我が国のシメサバやすし飯でも見るとおり,言うまでもない。固まりに塩をして表面の腐敗を防ぎ,薄く切って露出した肉の断面には柑橘の酸で殺菌する。
更に更に,これほどまでに防菌・殺菌された肉片にオリーブ油をかけて空気を遮断して万全を期している。
これが,カルパッチョという,極めて合理的な生食料理の真髄ではないだろうか。
これと全く同様の生魚料理が南米にあり「セビッチェ」という。ちがうのは,魚にあてる塩分がカルパッチョよりきついことと,柑橘汁を,よりたっぷりかけること。また,粒コショウなどを使う点だ。これもまた,イタリアよりも赤道に近い熱帯地方に叶った流用といえよう。
というわけで,以上の条件を満たした「カルパッチョ」の作り方を紹介しよう。
*******************************
【カルパッチョ】
①肉ないし魚は,小口に切りやすい大きさの固まり(魚であれば“サク”程度の大きさ)のまま,全体にきつく塩をまぶし,皿に載せておく。
②タマネギをごく薄くスライスして水にさらし,パリッとしたところで水分をよく切っておく。
③放置する時間は固まりの大きさによって異なるが,更に肉の水分が流れ出る頃を見計らい,表面をなでるように流水で塩をサッと流し,水分を拭いておく。
④薄くそぎ切りにし,タマネギをまんべんなく敷いた皿の上に,密に並べていく。肉の両端は塩辛いので特に薄く切ること。
⑤皿いっぱいに並べ終わったら,柑橘汁をまんべんなくたらしかける。次いで,粗挽き黒コショウをまんべんなく薄くふりかける。
⑥最後にバージンオリーブ油を,細くまんべんなくかけ回す。
⑦これで食べられるが,現代であれば,このまま皿ごとよく冷やして食べるのがオツ。
******************************
「カルパッチョ」の要諦は次のとおり
●肉ないし魚には,切りやすく整形した固まりのままシッカリと塩をあてること。
●薄く切ってちょうどよくなるよう,寝かせる時間を調節すること。
●スライスタマネギの上に薄切りした身を並べ,「柑橘汁→香辛料→オリーブ油」の順に細くまんべんなくふりかけること(ドバッとかけたり,この順序を変えたりしてはいけない。塩・酸・香辛料・オリーブ油のバランスが重要なのであり,また,順序を違えて先に油をかけたりすれば柑橘汁や香辛料の効能が損なわれる)。
******************************
我が国や外国の郷土料理,特に古い歴史を持つ料理を再現するとき,ぜひとも,その地域の地理や環境に想いをはせていただきたい。そして更に言えば,時代をさかのぼり,その土地でその料理が生まれた当時の背景を考えてもらいたい。現代に比べて,何があって,何がなかったのか。そしてどのようにしていたのか。そこに料理の構成要素があるからだ。
料理にせよ文化にせよ,原点にさかのぼると,おのずから“ホンモノ”が見えてくる。料理であればホンモノにより近い旨さを味わうことができる。ホントウのホンモノに出会うには現地に赴くしかないのであるが,その現地にさえ,ホントウのホンモノが消えつつある昨今だ。ぜひとも想像力をたくましくし,それぞれのご家庭に,ホンモノにを再現して伝えてほしいと願う。
つまらないことを言うようですが,,,
ここ数年来,都市部を中心に,店内にジャズが流れているようなナンチャッテハイカラ居酒屋,或いはあくまで自称創作料理屋などのいたるところに「カルパッチョ」なるメニューが導入され,最近は釣り人までもパッチョパッチョとかまびすしい。マグロや鮭,タイやヒラメなど,多様化をみせている。このことが,悪いけれどちょいと神経に障る。最近では,その名を聞くだけでもナンダカ腹が立つようになってしまっていけない。条件反射か。
というのも,これだけ普及している「カルパッチョ」であるが,店だろうが誰かが作ってくださるものだろうが,私はマトモなソレに一度も出会ったことがないからだ。具体的かつ断定的に言わせてもらえれば,世間で氾濫しているソレは,単なる“薄切り刺身と野菜のサラダ”である。ソレのソレたる最重要ポイントがボッカリ抜けてしまっているのである。ここを申し上げたい。
では,カルパッチョのソレたるゆえんは何か。
①塩,②黒コショウ,③柑橘汁,④オリーブ油,以上。これが構成要素。
こう書くと,ちゃんと全部入ってるじゃないですかっ,ウチのも! とおっしゃる方もおられようが,順序が違う。合わせればいいというものではない。同じ材料を用いても,順序と手法が異なれば,味としては違うものとなるは料理の理。やりかたが変われば“似て非なるもの”というのだ。
カルパッチョは言うまでもなく,元来,新鮮な畜肉を生で食べることを目的とし,これがイタリア南部を主産地とするオリーブ油および柑橘類と出会い,更に地中海の魚にも波及して定着したと推せられる。
しかし,現代でこそ,新鮮な肉や魚の入手が常識化しているが,その昔,どうであったろうか。まず,鮮度維持に必要な,冷やすための氷がふんだんにあるワケがない。かといって肉にしても魚にしても,屠殺ないし漁獲してから長期間常温で放置するわけにもいかなかったであろう。雑菌が繁殖する条件,すなわち①適度な温度,②水分,③豊富な栄養,が揃えば肉は腐敗へと進む。まして,カルパッチョの必須構成要素である柑橘類の地理的分布は温帯~亜熱帯域であるから,雑菌にとってはより快適なのである。そこで,2つの選択肢が生ずる。新鮮な肉や魚を入手したら,①速やかに食べてしまう,②保存するための処理を施す。
ところで,冷蔵庫が当たり前となった現代の我々は,たとえば肉の表面が菌に冒されて腐敗臭がしたら,可食部全てが腐敗していると錯覚してはいないだろうか。
実は,新鮮な肉の大きな固まりがあったとして,表面が痛んできたとしても,その内部は大丈夫,なのである。危ない部分と安全な部分をごっちゃにしてはもったいない。また魚であれば,大きな魚,たとえばマグロやクジラなどでも同じようなことが言える。丸ごとの小さな魚でも,新鮮なうちにウロコや内臓,ヒレなどの雑菌が付着しやすい部位を除いておけば,大型の生物ほど比較的常温でも長持ちするのである。初期の段階であれば,表面が臭くなったら洗えばよろしい。
そもそも熱帯地方の市場で,常温で魚がゴロゴロ並べられていてもちゃんと食べられるのはなぜか?これも同じ原理で,表面には菌がついていても,「生体」の内部は無菌状態だからだ。死んだ魚や牛でも,初めのうちは内部たる筋肉細胞は生きている。時間がたてば細胞中の分解酵素が作用して細胞が崩壊し,旨みが増し,それを越えれば外側から次第に菌が侵入し繁殖する場所となる。
ちなみに畜肉やマグロを「熟成する」といって固まりのまま保存しておくのは,この自己分解(=旨み成分の増加)と腐敗のきわどいところを見極める技術である。
さて。
とはいえ表面が雑菌に冒されることには変わりはない。そこで保存する手段として,当時氷が少ない時代に使用されるのがまず「塩」であろう。塩は最も入手しやすく生命と関わりの深い最初の調味料であり,味付けのみならず,その強い浸透圧によって肉の細胞から水分を奪うことができる。更に,付着した雑菌の細胞からも水分を奪ってしまう。もちろん海水中には塩分を好む菌もいるのであるが,陸上であれば,塩は,まず,先述した,菌の発生条件の最重要条件である「水分」を奪う力を持っているのである。
肉が腐敗しやすい温・熱帯の地方にあった,冷蔵手段もなく,それでもなお“生で食いたい”という欲求,おそらくそれがカルパッチョを生んだ原動力である。そこでは塩が不可欠のはずだ。しかも,味付け程度ではなく,雑菌が繁殖できない強い塩加減が求められたはずだ。
そして,もうひとつ,安全な生食を実現したのが,レモンやライムをはじめとする柑橘類の植生である。強度な酸味が雑菌の繁殖を阻害して保存性と安全性を高めることは,我が国のシメサバやすし飯でも見るとおり,言うまでもない。固まりに塩をして表面の腐敗を防ぎ,薄く切って露出した肉の断面には柑橘の酸で殺菌する。
更に更に,これほどまでに防菌・殺菌された肉片にオリーブ油をかけて空気を遮断して万全を期している。
これが,カルパッチョという,極めて合理的な生食料理の真髄ではないだろうか。
これと全く同様の生魚料理が南米にあり「セビッチェ」という。ちがうのは,魚にあてる塩分がカルパッチョよりきついことと,柑橘汁を,よりたっぷりかけること。また,粒コショウなどを使う点だ。これもまた,イタリアよりも赤道に近い熱帯地方に叶った流用といえよう。
というわけで,以上の条件を満たした「カルパッチョ」の作り方を紹介しよう。
*******************************
【カルパッチョ】
①肉ないし魚は,小口に切りやすい大きさの固まり(魚であれば“サク”程度の大きさ)のまま,全体にきつく塩をまぶし,皿に載せておく。
②タマネギをごく薄くスライスして水にさらし,パリッとしたところで水分をよく切っておく。
③放置する時間は固まりの大きさによって異なるが,更に肉の水分が流れ出る頃を見計らい,表面をなでるように流水で塩をサッと流し,水分を拭いておく。
④薄くそぎ切りにし,タマネギをまんべんなく敷いた皿の上に,密に並べていく。肉の両端は塩辛いので特に薄く切ること。
⑤皿いっぱいに並べ終わったら,柑橘汁をまんべんなくたらしかける。次いで,粗挽き黒コショウをまんべんなく薄くふりかける。
⑥最後にバージンオリーブ油を,細くまんべんなくかけ回す。
⑦これで食べられるが,現代であれば,このまま皿ごとよく冷やして食べるのがオツ。
******************************
「カルパッチョ」の要諦は次のとおり
●肉ないし魚には,切りやすく整形した固まりのままシッカリと塩をあてること。
●薄く切ってちょうどよくなるよう,寝かせる時間を調節すること。
●スライスタマネギの上に薄切りした身を並べ,「柑橘汁→香辛料→オリーブ油」の順に細くまんべんなくふりかけること(ドバッとかけたり,この順序を変えたりしてはいけない。塩・酸・香辛料・オリーブ油のバランスが重要なのであり,また,順序を違えて先に油をかけたりすれば柑橘汁や香辛料の効能が損なわれる)。
******************************
我が国や外国の郷土料理,特に古い歴史を持つ料理を再現するとき,ぜひとも,その地域の地理や環境に想いをはせていただきたい。そして更に言えば,時代をさかのぼり,その土地でその料理が生まれた当時の背景を考えてもらいたい。現代に比べて,何があって,何がなかったのか。そしてどのようにしていたのか。そこに料理の構成要素があるからだ。
料理にせよ文化にせよ,原点にさかのぼると,おのずから“ホンモノ”が見えてくる。料理であればホンモノにより近い旨さを味わうことができる。ホントウのホンモノに出会うには現地に赴くしかないのであるが,その現地にさえ,ホントウのホンモノが消えつつある昨今だ。ぜひとも想像力をたくましくし,それぞれのご家庭に,ホンモノにを再現して伝えてほしいと願う。
Posted by ウエカツ水産 at 22:47│Comments(1)
│魚・料理
この記事へのコメント
こんばんはッス!
なるほど。
巷に溢れているカルパッチョは単なる
>薄切り刺身と野菜のサラダ
なんですね。
カルパッチョには温帯地方でも生食したいという
苦労があった訳ですね。
未だ,ホンモノのカルパッチョには出会っていないと思いますので,
今度やってみます。
なるほど。
巷に溢れているカルパッチョは単なる
>薄切り刺身と野菜のサラダ
なんですね。
カルパッチョには温帯地方でも生食したいという
苦労があった訳ですね。
未だ,ホンモノのカルパッチョには出会っていないと思いますので,
今度やってみます。
Posted by イカロック at 2007年07月02日 19:20
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。