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2007年05月24日

もうひとつの「塩煮」

 なかなか更新できず,お恥ずかしい次第です。さて・・・。

 ワタクシは,けして塩煮だけにこだわっているわけでもなく塩煮マニアでもないのです。が,片手落ちで終わらせるわけにもいかない。ということで「もうひとつの塩煮」についてお話しておきます。

 07508「塩煮の世界」で,調理法としての塩煮には大別して2種類あると書いた。ひとつは沖縄の「マース煮」であって,これは直訳すればまさに「塩」煮であり,海水を調味料として用いた料理。 既に,この原型改良型および派生型については紹介した。
 もうひとつは,長崎県を主体に九州圏で主に継承されている郷土料理の「塩煮」であり,これはきつい塩をあてた魚を煮出し,その塩分で野菜類入れた汁物に仕立てる料理で,これは氷や冷蔵庫がない時代の魚の保存法の延長にある。従って,日本海側,太平洋側を問わず,塩魚を用いた汁物は,名前を変えて各地に存在する。
 たとえば三陸から北海道にかけてサバやサンマ,タラやその他の魚に塩をしてを用いた「三平汁」,大坂の船場で日本海の塩サバを用いた「船場汁」,北海道で塩したタラを用いた「じゃっぱ汁」,また,魚ではないが,塩漬けにしたクジラの本皮(表皮と脂肪繊維)を薄切りして用いる「皮汁」もしくは「クジラ汁」なども,古くから沿岸部のみならず山間部にまで浸透している。いずれにせよ,魚と塩が主役の料理なのである。

 日本の魚食文化に浸透している度合いとしては,「塩煮」の方が分布が広く,むしろ沖縄の塩煮(マース煮)の方が沖縄地方に固有の特殊なケースと言えるので,本来は前者を「塩煮」,後者を「マース煮」とはっきり呼び分けるべきかもしれない。ただ,前者であっても「塩煮」という呼称は,九州地方の一部にのみ存在するので,これまたややこしい。

 マース煮と塩煮の違いは,前者が魚自体を味わうことに重点を置いた一種の「煮物」であるのに対し,後者のそれは「汁」に重点を置き,その中で,魚,野菜などを総合的に味わう料理である点だ。目の前にある同じ素材で,2種類を同時につくり比較してみるのもオモシロイ。ほとんど同じ素材でも作業工程によって味のひき出されかた,味の組成がちがうことに気づくはずだ。これらは,調理技術を深めていく上で大変適した教材的料理でもあると思う。

 今回は,私の中の塩煮の原型である,長崎県における塩煮のつくりかたを紹介する。要は,塩の使い方が違うのである。


【長崎県 野母崎半島における塩煮】

 この塩煮は,汁の具材としてジャガイモとタマネギを合わせるところが特徴です。

(1) 魚は何でも良い。また,アラだろうが,骨ごとのブツ切りだろうが,切り身だろうが,差し支えない。ウロコは隅々までよく除き,魚は全て食べやすい大きさに切り,ザッと水洗いして水気を切ったらボウルにぶち込み,天然塩を全体にきつめにまぶしておく。そのまま最低30分寝かせる。あるいは一晩置いてもよい。

(2) 鍋に水を張り,厚めに切ったジャガイモを入れて強火にかける。ジャガイモの分量の目安は適宜。箸で刺してパリッと割れる程度に硬めに火が通ったら,塩しておいた魚を洗わずに投入する。この間,ずっと強火のまま。

(3) 沸騰したらアクをとり始める(吹きこぼれないよう,かつ沸騰が続くよう火加減を調節)。ひたすらアクをとり続け,ダシが半透明に澄んだタイミングでアク取りを終了し,沸騰しない程度に火を落とす。

(4) タマネギ半~1個程度を5㎜程度にクシ切りにし,バラして投入。タマネギの分量の目安は,鍋の表面を概ね覆う程度。タマネギが半透明になったら出来上がり。味が薄いようであれば,薄口醤油などをたらして調整する。

(5) これだけでも十分であるが,風味として刻みネギやおろし生姜を少量加えても佳。

この「塩煮」のポイントは,

● そのままで食べるには塩辛過ぎるほどの分量の塩を魚にあてる。目安としてはシメサバをつくるときに当てるベタ塩の加減とほぼ同等。浸透圧によって臭みは余分な水分と共に滲出し,身を引き締め,同時に魚の調味も兼ねている。
● 和食の教科書にある「潮汁」あるいは「すまし汁」の作り方のように,「魚にお湯をかけて掃除して冷水に放ち洗って云々,」といった細かな作業は一切必要ない。臭みとりから調味まで,全て塩がやってくれる。
● ジャガイモに火を通すとき,強火で一気に沸騰させることにより,でんぷん質がベタつかない仕上がりとなる(ただし,翌日に持ち越すと,でんぷんが糊化するので若干水っぽくなる)。
● 魚を投入してからも引き続き強火のままに沸騰させることにより,すばやく臭みと汚れを除去することができる。親の敵をとるが如く,ここではアクを取るのである。
● 魚を入れてからも,アクとりしている間はずっと強火のままであるが,ダシが澄んだにもかかわらず強火のままにしておくと,延々とアクが出る羽目になる。ダシが澄んだらアクとり終了,沸騰しない程度の弱火に落とす。
● タマネギは煮え進むと甘味成分が強くなり過ぎ,味の再調整が必要となる。従って,スッと半透明になった瞬間,いわゆる“煮えばな”を最良の食べるタイミングとする。
● 味の調整で薄口醤油を加えることもあるが,基本は,出来上がりの味を想定して魚にあてる塩を加減することにある。いわば,味の大枠は,一番最初の作業で決まってしまうと言ってよい。ここが,これまで紹介してきた塩煮(マース煮)とは異なる奥の深さの部分。

 さて皆さん。この料理をつくる過程で,ひとつ試してほしいことがある。

 ジャガイモが煮えたら塩魚を投入し,汁が澄むまでアクをとる,と。この段階で,汁の味をみてやってほしいのです。びっくりするハズ。
 もう,ほぼ,9割以上,この段階で既に味はできているのですよ。ジャガイモからはそんなにダシが出るわけもないので,要は“塩した魚を茹でただけ”の味です。これが塩のチカラなのです。

 (問い)それでは,魚を生のまま茹でて,そこに塩で味をつけたら同じ味になるか?
 
 (答え)→なりません。旨みの薄い,生臭い,塩汁になります。一般的な和食の潮汁は,この,あとから塩を加えるタイプなので,いろいろ下処理がめんどうになりますし、十分に旨みが出ないから酒のほかに昆布や、場合によってはカツオなどのダシを加えるのです。

 更に,タマネギを加えて一呼吸置いて,もういちど味見してみてください。
これにも,タマげます。完成,なのですよ。これで。
 何回かやってみて,魚にこれくらいの塩をしておけば,このくらいの塩加減の汁になるな,というポイントを,自分なりに経験としてつかんでおくことは大切なのですが,実はこのタマネギ,カリウムをたくさん含んでいる。塩の主成分はナトリウムですね。
 カリウムとナトリウムは,細胞の壁を境にして,常にバランスを保とうとしているのです。従って,多少塩辛すぎたとしても,ある程度はタマネギが吸収して味のバランスを保ってくれるのです。
というしくみになっております。 なんとありがたい野菜でありましょうか。

どうです?
極めてラクチンでしょう!
これも,マース煮同様,15分1本勝負であります。

 ジャガやタマを入れなくても,季節の葉物,野菜,なんでも刻んで入れればOKです。根菜類を入れるときには魚の前に。葉物は魚のアクを取り終わってから入れればよろしい。ただ,ジャガタマが,いちばん魚の味を邪魔せずに旨みを出してくれるので、私はこれを基本形としています。

 調味過程でマース煮との違いはどこにあるかといえば,マース煮が,焼いて,酒で煮て,味が浸透しやすくしたところに塩水で味付けするのに対し,塩煮は,あらかじめ魚に塩味をつけておいて水で煮て,その浸みだした旨みで汁や野菜を味付けする,という点。
 また,マース煮が,主に白身の魚に適しているのに対し,この塩煮は,赤身の魚にも適しているのです。もちろん白身でもイケます。青魚でマース煮をすると,やや生臭さが残る。まあ魚料理はなんでも,時間がたつほどに臭みは発生するものですが。

煮物,汁物は,やはり「煮えばな」を食わないと、或いは食べてもらわないと、いけない。
料理はつくるタイミングと同等に,食べるタイミングも重要なのはご周知のとおり。

それをわかってくれる人にこそ食べてもらいたいし,一緒に暮らしたい,というのもありますな!
皆さんのご家庭はどうですかな?

さて,これまで紹介した2つの塩煮についてひと言でまとめると,

マース煮の要諦は,

 「魚の下処理と加える塩水の塩加減,そして火加減」

塩煮の要諦は,

 「最初に魚へあてる塩の加減,そして火加減」


内地の塩煮のほうが,チョイ楽か。
こまかいところは、お手数ですが過去記事をご覧下され。

ま,こんなとこで。



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Posted by ウエカツ水産 at 15:02│Comments(4)魚・料理
この記事へのコメント
【長崎県 野母崎半島における塩煮】
 師匠宅でおいしくいただかせてもらいました。ブライザーは一足先にごちそうになっておりその味を忘れないうちに、師匠からいただいたカワハギで実戦させてもらいました。依然の私の魚系汁は、
「う~~ん。くさからず。まずからず。かといって。うまからず」でありました。
弟の記憶を頼りに指導を受けながら作った作品でしたがうまく作れました。
なんでこれだけの調味料でこのような深い味がでるの?と言った傑作となりました。翌日少し余った物でしたが友達に食わせると
「すっごいうまい」と言って猫のように食べていました。今後は、いろんな魚でチャレンジしてみたく練習中であります。
 また、イカと野菜のスープ!!これまた絶品でした。味を思い出しながら、アオリイカでチャレンジしてみましたが、撃沈ですYO!!困った挙句コンソメ&砂糖を入れてしまいました。なんとか飲める味へと無理やり追い込んだ状態です。ただいま現在アニーは修行中です。しかしです、塩煮だけはおいしく作れるようになりました。レシピのおかげです。
塩は「赤穂の甘塩」これがどうもいいようです。
Posted by アニー at 2007年05月27日 02:59
塩煮記事3部作ありがとうございました。

ジャガ・タマの塩煮の作り方を忘れるところでした。。。
特に、終始アクを取りながらボコボコと煮てしまいそうでした。。。

そのとき塩鮭で、チャレンジしてみたのですが、身をペロっとなめたときにちょっと甘いと思ったのです。

そこで塩をつけてみましたが、
できあがったときに、やや辛くなりました。。。

魚にする塩加減どんな感じがベストなのでしょうか?
辛くなったのを薄めるにはタマでいいのですか?
Posted by イカロック at 2007年05月27日 16:05
to:アニーさま

了解です。
イカについては、近々別途レポートする予定です。
ここでちょっとだけ書きますと、
①弱火でニンニクみじん切りを多めのオリーブ油で炒め香りを出す
②強火にしてぶつ切りしたイカを塩コショウで調味し炒める
③酒をひたひたに注ぎ、蓋をして蒸し煮
④水を注いで沸いたら刻んだ野菜類を入れて少々煮込む。
⑤トマトを擦り入れ、しばらくアクをとり、再度味を調えたら完成。

塩については、最近いろいろ種類も増えてますが、汎用性の高いものは意外と少ないように思います。これについては、別項を設けてお話しすることとします。
Posted by ウエカツ at 2007年05月28日 13:33
to:イカロックさま

既に塩蔵になっている魚、塩サバや塩ザケでやる場合、味の調整は、最後にするほうがいいですよ。

なぜなら、粗塩を当てた生魚と違って、塩ザカナは、肉の芯まで均一に塩気が通っているからです。

だから、煮立った段階で味をみて塩気が薄いと感じても、ここで丁度良く調味してしまうと、このあと芯から更に塩分が出てきて、結局塩辛くなってしまう、ということなのです。

タマネギが塩気を調整するといっても、やはり限度がありますので、まずはベースの味をしっかりさせ、微調整をタマネギにやってもらうくらいでちょうどいいと思います。

また追記しておきます。
Posted by ウエカツ at 2007年05月28日 13:41
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